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羽生結弦、宇野昌磨、ザギトワ、浅田真央らの音楽的表現から見たスゴイ演技とは?「関ジャム」より


2018年12月7日に開幕するフィギュアスケートのグランプリファイナル。その前に今一度、フィギュアスケートと音楽の密接な関係性について再度お勉強。というのもルール改正に伴った音楽表現という点にも着目。ということで6月24日に放送された企画に引き続いて今回新たな解説陣を迎えて音楽から見るフィギュアスケートについて見ていく事にしましょう。

というわけで2018年12月2日に放送されたテレビ朝日系『関ジャム 完全燃SHOW【音楽で見るフィギュアスケート特集!演技と音楽の関係』より、その謎に迫ります。

勝つために必要なのはジャンプだけではなく、演技と音楽の融合もポイントなんです。

羽生結弦、宇野昌磨、髙橋大輔、無良崇人、アリーナ・ザギトワ、荒川静香、浅田真央らの音楽的表現から見たスゴイ演技とは?

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解説陣

  • 荒川静香 – 2006年トリノオリンピックの金メダリストにして日本スケート連盟の副会長も務める名スケーター。
  • 無良崇人 – 2014年四大陸選手権優勝など大きな体を使った力強い演技でも有名。
  • 宮本賢二 – フィギュアスケート専門の振付師で2010年バンクーバーオリンピックでは髙橋大輔「eye」の振付を担当。その他にも手掛けた選手は羽生結弦、浅田真央、鈴木明子、宮原知子など数知れず。ちなみにアニメ「ユーリ!!!on ICE」の振付も担当。

ルール改正

荒川「もちろん技術力がどれほど素晴らしいかっていう所に注目集まるんですけれども、やっぱりフィギュアスケートの良さというのはそれ以外の表現綿という所で。フリーなんかは同点だった場合は演技構成点という表現面を評価するものが高い方が上になったりというルールがあるぐらい。」

あまり知られていないかもしれませんが、フリーの場合は万が一同点になった場合はジャンプなどの技術点ではなく、音楽表現などの演技構成点が高い方が勝利するというルールがあるんですね。

さらにルールという点でいえば2018-2019シーズンではルールの大幅改正がありましたよね。

主な所では、

項目旧ルール新ルール改正後
男子フリー演技時間4分30秒4分※男子のみ
男子フリージャンプ数8本7本※男子のみ
ジャンプ基礎点 4回転の基礎点が大幅減
GOE(出来栄え点)7段階採点(+3から-3)11段階採点(+5から-5)
演技後半ボーナス1.1倍SPの最後の1本、FSの最後の3本
フリーで繰り返せる4回転ジャンプ2種類まで1種類まで
コレオシークエンス基礎点2.0基礎点3.0

無良「今までジャンプで点数を稼ぐっていうのが主流ではあったんですけど、そうするとジャンプに目が行き過ぎてしまうのでプログラム全体としての完成度っていうものを求めていくために比重が下げられたっていう見方があるので。」

特に4回転ジャンプの基礎点が大幅に引き下げられたのでジャンプ以外の表現の部分を評価する演技構成点がより重要に。さらにGOE(出来栄え点)が細かく評価されるようになったので簡単に言ってしまえばジャンプは難度よりも質で評価するという流れに。

多少難易度を下げても、より完璧な演技が出来るジャンプを選択する方が賢いということですね。

このルール改正について荒川静香さんは、

「一番差が出来るのは男子がより多く跳ぶ4回転。出来に関してはすごく差が生まれるので。それはこれまでの傾向とあまり変わりはないかなっていう感覚はあります。」

ルール改正にはコレオシークエンス(略称:ChSq)の基礎点アップにも触れていますが、これは曲を自由に表現できるブロックの事。

それに対してステップシークエンス(略称:StSq)はロッカー(rocker)、カウンター(counter)などのステップ&ターンを組み合わせる演技で回数や種類などで4段階評価。

ちなみにロッカーとカウンターについて羽生結弦の演技動画で解説してある動画がコチラ。

これら2種類のシークエンスでもGOE(出来栄え点)が11段階で評価されるように改正。

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羽生結弦の音楽表現

まずは羽生結弦の音楽表現について、グランプリシリーズ2018年フィンランド大会で披露したフリーの「Origin」から。

音とジャンプのシンクロ性、そしてステップシークエンス・コレオシークエンスにも注目。

コチラが演技動画。

冒頭の4回転ループは大きな音に合わせたジャンプ。続くジャンプも音に合わせているのが分かりますね。

また、音の終わりにタイミングを合わせた着氷なども。音のすき間に合わせたコンビネーションジャンプ。

コレオシークエンスではレイバックイナバウアーやハイドロブレーディングを組み込んだお得意の構成。

ショートプログラムの「秋に寄せて」(Otonal)ではステップシークエンス中のハイドロブレーディングで手をリンクにつくシーンから伸びやかにジャンプするシーン。ここでは音の変化を強調するために体を下から上に上下幅を目一杯大きく動かして、視線移動させる振付。

コチラが演技動画。

荒川「全てが(音に)かみ合った演技っていうのが神がかった時みたいな。」

振付師の仕事の流れ

ここでひとまず、振付師である宮本賢二さんの仕事の流れについて少し触れておきます。

大まかに言うと、

  • 選手・コーチから依頼
  • 選手の横でポータブルCDプレイヤーを持ちながら一緒に滑って振付
  • 1つの演目は大まかに3日で完成
  • 1か月練習してもらって見直し・修正
  • 大会では観客席からチェック
  • 修正点があれば再度修正

宮本「先に言うときますと、CDプレイヤーじゃなきゃ嫌なんですよ。iPodでしたっけ?とかってちょっと巻き戻す時も全然反応しないんすよ。寒いし。皆さんに『まだCD使ってんの?』って言われるんすけど、CDが一番使いやすいんですよ。」

機械オンチだから未だにCDプレイヤーというわけでは無いと必死に弁明w

曲の指定については選手とコーチから一緒に依頼が来るとの事。尺は決まっているものの構成は相談して決めるそう。

「この辺でこのジャンプを入れてくれ。」という指定もその際に発注を受けるようですね。

ジャンプはコーチが指導するので踏切前の動きから着氷した後の手の細かい動きなどを振付師が担当。基本的にジャンプ以外の動きは全て決めているんですね。スピン中の手や最後の決めも全て。

なかには選手自らが振付するという事も。また、振付専門の方は少なく、通常は振付とコーチングを一手に引き受けるというケースが多いそう。

ちなみに「あの選手の振付を取り入れたい。」というリクエストにもある程度は応じてあげるとの事。

また、衣装の形や色、果ては髪型(マツエクも!)にも振付師のアドバイスが生かされるそう。例えば髙橋大輔の髪型も本人と相談したうえで試行錯誤したそうで、ジャッジからどう見えるかというポイントも意識しながら前髪の垂らし方なども調整したようですね。

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2018-2019シーズンで担当したのは、

壷井達也、荒木菜那、中村俊介、手嶋里佳、山隅太一郎、竹野比奈、本郷理華、山本草太、日野龍樹などなど、およそ50人の振付を担当。

振付のインスピレーションについては動物園や水族館などでそのヒントをもらったりだそう。

解説陣の荒川静香さんや無良崇人さんも宮本賢二さんの指導を仰いだことがあるようですが、

荒川「最初のポーズの立ち方の足の角度を賢二先生は細かく。私は振付していただく時に。」

また、無良崇人さんによるとスケート靴は底にブレードがついているので足首の寝かせ方で足先の表情が変わって見える為にかなり細かい所まで見せ方を工夫する余地があるとの事。※荒川静香さんは小さな子だと足首が寝てしまう傾向にあるとも。

両足を離す際にも、どの位離せば自分のスタイルがキレイに見えるか?という所もポイントになってくるようですね。このように個人の違いや男性・女性に分けた表現方法の違いにも踏み込んで指導するとの事。

個性を含んだ表現

2016年トリノオリンピックで荒川静香さんが金メダルを獲得した演技。「トゥーランドット」で披露した(レイバック)イナバウアーは2006年の流行語大賞に選ばれるほど有名に。

イナバウアー自体に基礎点は設定されていないので技術点としては採点対象にはならないので、評価されるのは演技構成点のみ。

それでも大一番で盛り込んだのには深い理由があるそう。

その当時のコーチであるニコライ・モロゾフはとにかく得点にこだわるタイプのコーチだったそうですが、にもかかわらず得点にあまりならないイナバウアーを取り入れた振付について疑問を感じ、「普通に助走していった方がいいのでは?」と質問したところ、

「それは今のフィギュアスケートの中で個性が失われてる。それをオリンピックのような大きい所で大切にすべき所なんじゃないか?」と諭されたというエピソードが。

荒川「私の個性っていうのを見ててくれたんだ。それって私の個性だったんだ。と思って取り入れたのがイナバウアーだったので。そのシーズン外してたんですけど、ずーっと。」

オペラ楽曲である「トゥーランドット」は氷のように冷たい心を持った皇帝の娘トゥーランドットとその心を溶かす王子カラフとの愛の物語で中国を舞台にした演目。

荒川静香さんはそういったストーリーそのものを表現するよりもトゥーランドット姫の内面、女性の強さにフォーカスした演技を披露。様々な強さを表現したという表情の変化にも注目です。

コチラが視聴動画。

序盤は凛とした孤独な女性の強さ(氷のように冷たい心)を表現。

荒川「緊張した中できりっとした表情でもこれは自然に見える。っていう曲調を持って来たんですね。それによって自分も強く戦いに入っていけるみたいな効果も狙って。」

オリンピックという大舞台での緊張した表情すらも計算して、それをトゥーランドット姫の心象風景として表現していたという深いお話ですね。

そして曲の展開に合わせて女性の真の強さを優しい表情で表現(動画内2:13付近)。

そして物語のクライマックスとなるトゥーランドット姫とカラフが結ばれるシーンで渾身のレイバックイナバウアー。息を止めないと出来ない演技。そこから3連続ジャンプへとつなげる構成。

荒川「あそこは無呼吸でいかないと。腹筋を一回でも緩めたら起き上がってその後ジャンプには(いけない)。そうする(息を止めてる)と星が飛んじゃうんですけど。ほとんど息が上がっている状態で(息を)止めるんで。それがリスクだから外してもいいですか?って聞いたんですよ。笑。確実に(ジャンプを)決めたいから。」

実はレイバックイナバウアー直後のジャンプはここまでの難易度だったんですね。ましてや得点源になる3連続ジャンプ。

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ザギトワの怒涛のジャンプラッシュ

そんなオリンピックチャンピオンの荒川静香さんをして、その音楽表現がスゴイと思った演技が2018年平昌オリンピックのアリーナ・ザギトワのフリー演技。演技後半に見せる怒涛のジャンプラッシュ。

荒川「若い選手ってまだ表現力が深みを持ってっていう所を求めるのが難しい。でもどうしてもシニアで戦うにはって背伸びをしようとする選手が多い中で、彼女は選曲をドン・キホーテというリズミカルな曲にする事によって補っていった。」

「前半は2分間全くジャンプを跳ばない構成なんですけど、スピンとステップとコレオシークエンスっていう、そこをスローパートでもつないでいって後半の曲調がガラッと変わる所からリズムに合わせてジャンプを畳みかけていく構成にしたので結果、それだけを見ると偏った作りって思われがちなんですけど、曲に全部技をマッチさせていったので、スピンのちょっとした動きも、ジャンプの降りるポジションの作り方も全部マッチさせたので、演技構成点も全部が決まった時にバンッと上がるっていう。」

「戦略的プログラムだったなって。今は。私の見解ですけどね。」

これに関して無良崇人さんは、後半にジャンプを集中させるというのはそれだけで選手にとってはリスクで、本当はしたくない事のハズとしつつも、

無良「だけど、それが出来るだけの能力がある。からそれをやるっていう選択をしたんだと思うので。」

その演技動画がコチラ。2018年平昌オリンピック。アリーナ・ザギトワのフリー「ドン・キホーテ」※表示がブロックされますので「YouTubeで見る」からご視聴ください。

初っ端からコレオシークエンス。

スピンを行った後は曲調が変わってステップシークエンスへ。

この時点で既に2分が経過。

そこから1本目のジャンプ。

3:30付近からリズミカルな曲調に変化。そこからいよいよ怒涛のジャンプラッシュへ。リズムを刻みながらのクライマックス。

ジャンプも曲のアクセントのタイミングにしっかり合わせていますね。

そして最後のポージングも完璧に曲終わりに合わせてフィニッシュ。

メロディーが無い音楽

続いては無良崇人さんの演技。

2017年のショートプログラムでの使用曲「ファルーカ」はフラメンコの曲で、ギターのメロディーが特徴的なのでどんな選手でもメロディーに合わせるのが一般的。

それをあえてメロディーの無い(足拍子部分でサパテアード=zapateadoと呼ばれる)部分を音源として使ってステップシークエンスを踏む事で個性を持たせるという試みを振付師と相談して決めたとの事。

無良「体でメロディーを表現するかっていうのが難しかったですね。」

2017年スケートアメリカ ショートプログラム「ファルーカ」。2:13付近からのステップシークエンスに注目。

コチラが視聴動画。

足拍子のタップの音だけ響く場内。ものすごい緊張感の中、全身を使ってメロディーを表現していきます。

激しく刻まれるリズムに対して情熱的な振付。

宮本「膝と足首が柔らかいので、どんだけエッジが深くてもちゃんと耐えられる足を持っているので、あれだけ複雑な動きが出来るっていう。」

少しでもリズムが狂うとバラバラになりかねない緊張感。それを越えての表現ですね。

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浅田真央の足さばき

そんな無良崇人さんが音楽表現でスゴイと思ったのが浅田真央さん。特に足さばき・ターンのスゴさとの事。

その見どころは、

  1. 頭が一切ブレないツイズルターン
  2. 左回転・右回転の切り替えの応酬
  3. 音楽とのマッチ(いわゆる“音ハメ”)

浅田真央=トリプルアクセルとイメージが強いかもしれませんが、今回は3:01付近から登場してくるツイズルターンにご注目。

2015年中国大会 ショートプログラム「素敵なあなた」

曲の盛り上がりに合わせて片足を使った多回転ターンのツイズルを披露。

続いては2010年バンクーバーオリンピックのショートプログラム「仮面舞踏会」※表示がブロックされますので「YouTubeで見る」からご視聴ください。ターンは2:45付近から。

左・左・左・右・左・左・右・左・左・右と回転を変えながらの演技。ツイズルも織り交ぜながらの音楽表現力が銀メダル獲得の原動力に。

無良「普段の練習の中で左回り、右回りっていうのも右足・左足両方やるんですよ。」

荒川「どんなに練習してもやっぱり差が出て来るので、左回転の右足が得意な人とか。真央ちゃんはそれが無い。同じぐらいのクオリティで両方繰り出す。」

歴代最高レベルの振付

宮本賢二さんが選んだのは歴代最高レベルの振付という2010年バンクーバーオリンピックで髙橋大輔が披露したショートプログラム「eye」。この中では2つのステップで違う音楽表現をするという仕掛けが。

当時はステップシークエンスが1曲中に2つ。

  1. メロディーではなく、雑音っぽい音に合わせたステップ
  2. メインメロディーの四拍子を使ったステップ

まずは「バンバン」と鳴る音に合わせたステップシークエンス(1:46付近から)。

続いてメロディー全てを全身で細かく表現したステップシークエンス(2:30付近)

このステップで最高難度のレベル4の評価を獲得。日本男子初となるオリンピックメダルを勝ち取った要因に。

荒川「大ちゃんの場合は全部のリズムを拾いながら、その合間に遊びを入れていくのですごい魅力が増すんですよね。他の人には出せない所まで音を全部拾って彼の個性を表現して組み込んでいくので。それを(宮本賢二さんが)狙って作っているのと、それプラスアルファがある。大ちゃんは。」

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宇野昌磨の“音ハメ”スピン

続いて宮本賢二さんがその音楽表現で高く評価するのが宇野昌磨の演技。

特にその音ハメがバッチリ決まるスピンを高評価。

ジャンプやステップを音にハメていくのは当然としても、曲が速くなるタイミングに合わせてスピンの回転速度もシンクロして速めるという細かい芸当を見せるのが宇野昌磨。

宮本「スピンだけで『うぉ~!!』となる。」

2018年グランプリシリーズ カナダ大会 ショートプログラム「天国への怪談」

1:23付近に登場するバタフライでエントリーしてからフライングキャメルスピン。続く足替えシットスピン。

2:55付近ではギターの音に合わせて足替えコンビネーションスピン。

また、2016年グランプリファイナルのフリー演技「ブエノスアイレス午前零時」。

演技最後のコンビネーションスピンで9人のジャッジ全員からGOE(出来栄え点)で満点評価を獲得。

クリムキン・イーグル(カンティレバー、cantilever)からスピンへ。完璧なフィニッシュ。

まさに“スピンだけで『うぉ~!!』となる”とはこの事。ボーカルも相まって高揚感のまま終わりを迎えるという演出。

宮本「ドキドキするでしょ?ワクワクするというか。それで最後のフィニッシュ。もう拍手ですよ。」

回転数を自在に操る術としては、

宮本「大変な事です。ポジション変わってませんから。筋肉を使ったりとかして。」

荒川「軸を細くするイメージですよね。」

また、足替えのタイミングで頭を大きく振る事でも軸の太さが変わって回転数を上げる事が出来るとか。

2018年6月24日に放送されたフィギュアスケートと音楽の重要な関係性について語られた「関ジャム」の内容はコチラ。

宮本賢二さんが他の番組で語った内容はコチラ。

「関ジャム」に関する全記事はこちらのリンクから

一覧:「関ジャム」

 - フィギュアスケート

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