振付師が語るフィギュアの見方。羽生、宇野選手の演技について。
フィギュアスケートの魅力と言えば、スピンやジャンプなどの大きな技へ注目がいきがちで、特に男子のフィギュアスケートでは4回転ジャンプを跳べるか否かを中心に語られる事が多いですが、フィギュアスケートの魅力はそれだけではありません。
フィギュア選手の演技を支える振付師の存在を皆さんはご存知でしょうか?
羽生結弦選手、浅田真央選手など、のべ300人以上の振付を手がけてきた有名振付師の宮本賢二さんがTV番組「戦え!スポーツ内閣」で語った、振付から見るフィギュアスケートについてご紹介します。
これを見ればフィギュアスケートの見方が変わるかもしれません。
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宮本賢二さんについて
10歳の時にスケートを始め、アイスダンス選手として活躍され、2001年、2002年には全日本選手権連覇。その後2008年には選手を引退されて、振付師に転向されてらっしゃいます。
そして、2010年バンクーバー五輪では高橋大輔さんの日本男子初の銅メダル獲得となった演技の振付を担当されました。
現在、振付師として年間50人近くを担当する日本を代表する振付師のお一人です。
これまで振付を担当した選手は、羽生結弦、高橋大輔、エフゲニー・プルシェンコ、織田信成、安藤美姫、宮原知子など300人以上に及びます。日本人選手だけでなく海外選手も多く、当然ながら超有名選手も多数ですね。
宮本賢二さんは振付を考えるにあたって、動物園、水族館、博物館に足を運んで、自然の綺麗なものや、魚や動物の動き、または芸術作品からインスピレーションをもらって実際の振付に落とし込んでいくようにしているそうです。
振付師とコーチの違い
フィギュアスケートを語る上でコーチにはメディアでもスポットライトが当てられる事が多く、実際にスケートリンクの側でコーチが演技を見守っている姿はカメラにも頻繁に映ります。そんなコーチは選手のテクニカルな部分を主に指導しています。
対して、振付師は表現の部分を担当して、選手の細かい指先まで演出していくため選手と直に触れ合う機会は振付師の方が多いそうです。
生涯最高の振付
そんな宮本賢二さんが手がけた振付の中で、ご自身が生涯最高の出来と語るのが2010年シーズンの高橋大輔選手のショートプログラムです。
日本人及びアジア人の男子シングルの選手として史上初の冬季オリンピックのメダルとなる銅メダルをバンクーバーオリンピックで獲得したあのプログラムとして超有名です。
動画はバンクーバー五輪後に行われた2010年世界フィギュアスケート選手権から。
滑り出しの顔の振り向き方
パッと振り向くべきか、柔らかくゆっくりと振り向くべきかどちらが見栄えがするかという点を意識して、検討した結果、ゆっくりと振り向いてジャッジを見るという選択をされたそうです。
また、顔が見える方向を意識して前髪の垂らし方もこだわっていたそうです。
手を大きく見せるための工夫
高橋選手は手があまり大きくないため、出来るだけ大きく見せるために衣装の袖口にストーンの装飾を施して強調しています。
何もせず観客を見る
ステップに入る直前に、あえて何もしないで観客を見る振付を加えて、これから行うステップへの注目を引きつけるような効果を生んでいるそうです。
印象付けるため止まる
一度完全にストップするポイントを作って「静と動」を印象付ける振付になっているそうです。
ステップ中には何箇所も小さく動いたあとに爆発的な動きに切り替えるというポイントがいくつも出てきていますね。
ジャッジの目の前では
ジャッジの席前を移動するシーンでは、そのまま前を通り過ぎるのではなく、顔を残しながらスケーティングする事で、しっかりとジャッジにアピールしています。
カメラを意識したポーズ
フィニッシュではカメラ映えするような角度や手の形などを意識しています。
羽生結弦選手の振付について
ソチ五輪で羽生結弦選手が金メダルを獲得した時のショートプログラムの振付を担当したのはジェフリー・バトル(Jeffrey Buttle)さんで、現在世界でも最も有名で、旬な振付師として知られています。
ちなみに演技が開始される直前に羽生結弦選手は目をつぶっているのですが、シーズン当初では目を開けていた所、宮本賢二さんがつぶった方がかっこいいよというアドバイスを送り、変更していたそうです。
動画はスペインのバルセロナで開催された2015/2016 ISUグランプリファイナルから
その振付ポイントは大きく分けて3つです。
手はやわらかい動きで常に動かす
手の動きは力強い動きではなくてやわらかく、常に動かし続けています。肘も伸びきるのではなく、やや曲げて、衣装のイメージに合うような振付になっているそうです。
ピアノの曲に合わせて鍵盤の上を跳ねるように滑る
ピアノの曲を使用しているため、鍵盤を跳ねるようなイメージのステップが盛り込まれています。その中に力強いジャンプがちりばめられるために曲との調和が取れていますね。
曲にスピンを合わせる
後半の曲調が変わってからは手の動かし方も激しく、スピンも曲に合わせてスピードを変化させています。
ショートプログラムと言えど、前半と後半にアレンジを加えて、全体として色んな演技が楽しめるような振付となっているそうです。
宇野昌磨選手の振付について
宇野昌磨選手は高橋大輔選手にさらにセクシーさを足したような雰囲気で、しかもその中にキュートさも持ち合わせているのが魅力なのだそうです。
2016年には国際スケート連盟公認大会で史上初となる4回転フリップを成功させたのですが、ジャンプだけではなくてその振付にも注目です。
動画はフランスのマルセイユで開催された2016/2017 ISUグランプリファイナルから
特に手先の動きに関してはそのセクシーさが際立つように、力強く手を動かした後に余韻を残すようにしてしっとりと動かすことで強調されています。
宇野昌磨選手の特徴である体のやわらかさを生かして上半身と下半身で別々の動きをすることで魅力を最大限に引き出しているそうです。
そしてトレードマークのクリムキンイーグル(カンティレバー、カンチレバー)ですね。
フィニッシュのシーンでも派手に動くのではなく少し手を添える振付を加える事でセクシーさを表現出来ているそうです。
このように、選手の生まれ持った個性や曲調に合わせるようにして、必要な要素をしっかりと押さえながら振付されるからこそ、演技の完成度がさらに高まり、見ていて夢中になってしまうようなスケーティングが実現されていると言う事ですね。
今回ご紹介した点を踏まえながら、次回フィギュアスケートを見る際には、手の動きや表情の変化など振付の細かいディテールに注目してみてはいかがでしょうか?