カジノロワイヤルのスタント解説 ボンドカークラッシュ名シーン英語翻訳の謎
映画「007 カジノ・ロワイヤル」ではボンドカーのアストンマーチンが横転するクラッシュシーンが印象的ですが、カースタント解説が書かれた記事に英語翻訳の誤訳と思われるような箇所が散見されたため、原文の記事と照らし合わせながら詳細について調べてみました。
問題の記事
【Esquire(エスクァイア)版】 ギネス認定の横転シーン詳解 ー『007 カジノ・ロワイヤル』のボンドカーは凄かった! 2ページ目
【Yahooニュース版】ギネス認定の横転シーン詳解 ー『007 カジノ・ロワイヤル』のボンドカーは凄かった!
Esquire(エスクァイア)のオンライン記事をYahooニュースにも配信している形をとっているため上記2つの記事はほぼ同じ内容となっています(表現が多少違う部分もあります)。
気になったのは劇中のボンドカーとして有名なアストンマーティン 「DBS」が激しく横転するシーンのスタントについての記述。スタントチームの苦労について語られている部分です。
本文の2行目にはオンラインゲーム「ラリークロス(レースとラリーを組み合わせた自動車競技)」のクラッシュシーンを参考にしたという記述が出てきます。
オンラインゲーム?一体何のことでしょうか?スタントチームがオンラインゲームを使ってシミュレーションでも行ったのでしょうか?それを元に傾斜を20cmに設定した?うーん。よく意味が分かりませんね。
一応ラリークロスのゲームとしては「DiRT 4」というタイトルがあるようですが。
こんな時は原文の記事を調べてみるしかありませんよね。
原文の記事では?
Yahooニュース版には原文へのリンクが省略されていますが、Esquire(エスクァイア)版では掲載されていますのでそちらをチェックしてみることにしましょう。
How James Bond’s Aston Martin Accidentally Set A World Record Filming ‘Casino Royale’(英語ページ)
Esquireから参照する場合は記事下の赤枠で囲った部分がリンクとなっています。
スポンサーリンク“based on some rally cross crash they’d seen on the internet.”という記述が該当の個所です。
簡単に訳すと「ネットで見たラリークロスのクラッシュをもとに」となりますね。
オンラインゲームなんてどこにも出てきません。ただし、原文を読んでいくとまたしてもよく分からない部分が。
“the Aston proved a lot more stable than those crusty 5-series”という記述が続いていますが、これは一体?
訳としては「アストンは堅い5シリーズよりも安定性が高いことが証明された」となりますが5シリーズとは何でしょうか?さらに謎が深まります。
車に詳しい人であれば分かるのかもしれませんが、疎い人からすると何が何だか…。
原文のさらに原文「Evo」
元記事の原文を読んでも何だか腑に落ちない・・・。
ではさらにその元記事である自動車ニュースサイト「Evo」の記事を読んでみるしかありません。
該当の記事はコチラのようですね。
Aston Martin DBS: How James Bond crashed his Aston – Evo(英語ページ)
2007年3月1日が更新日になっていますのでかなり古い記事を引っ張ってきていることが分かります。まあ映画の公開日を考えると納得ではあります。
Evoでは非常に長い文章となっていますが、該当箇所は中盤辺り。以下のような記述が見られます。
「アストンに形や重量が似せられているE34 BMW 5シリーズを参考に傾斜台を20cmに設定した」
「スタントコーディネーターのゲイリー・パウエルがラリークロスのドラマチックなクラッシュをインターネット上で見て、アストンでも同じように何回転もするような劇的なシーンを狙った」
こんな感じの訳になる文章がありますね。謎だった「5シリーズ」とはリハーサルで使用されたBMWの車種だったことが分かります。
リハーサルでは時速65マイル(約104km)でBMWを突っ込ませた時に3~4回転して思惑通りのシーンが再現できたようですね。注:他のサイトの記事では「時速80マイル(時速約128km)で25cmの台に突っ込ませて5回転させた」という記述も見られたりします。
ただし、いよいよアストンを使ったテストを行った際には5シリーズよりもより安定感があったために上手く回転しないことが発覚。スタントチームはさらなる改善を迫られることに。
そこからは台の高さを45cmに上げたり、さらにスピードを時速70マイル(約112km)に上げたりと調整を行っていますがそれでも頑丈なシャーシと低重心の為にこれも失敗。
アストンを転がすのは至難の業だった事が伝わって来ますが、最終的には車体の底に取り付けたピストン装置で横転させることになったとの事。
とここまでのいきさつは翻訳記事の通りですね。
スポンサーリンクピストン装置とは?
細かい指摘をすると、Esquireの翻訳記事では『「DBS」に乗ったスタントマンが急ハンドルを左に切ると同時に車体底の金属ピストン装置が作動して』という説明があります。
これではあたかもハンドル操作と連動してピストンが動くようなイメージを持たれるかもしれませんが、Evoの元記事では「トリガーが引かれるタイミングはスタントマンのアダム・カーリーに委ねられており」という記述がありますのでハンドル操作と連動してピストンが作動するわけではありません。
考えてみればハンドル操作に連動して車体が勝手に跳ね上がる装置は危なすぎて現実的ではないでしょうね。
イメージとしてはこんな感じでしょうか。
世界記録?
翻訳記事では「世界記録」にも言及されていますが、「これは自動車の横転におけるギネス世界記録に認定されているほどですから」という表現が。
元記事では「ピストン装置を使ったギネス世界記録でTop Gear(自動車番組)でマークされた記録を上回って7回転を達成」というような表現になっています。
ちなみにTop Gearではこんな感じ。91年製のフォード・シエラが使用されて記録は6回転。
映像を見ていただければ分かりますが、横転させるためのピストン装置は、ピストンがそのまま外に射出されるようになっていますよね。
スポンサーリンクではカジノ・ロワイヤルの横転シーンを撮影したメイキング映像を見てみましょう。
速度は最終的に時速75マイル(時速約120km)まで達していたようです。またクラッシュ後に車のライトが点いたままというのも狙い通りだったようですね。
画像が粗いのではっきりとは言えませんが、横転時にピストンのようなもの(もしくは別のパーツ?)が射出されているようにも見えます。
「ピストンで車体が浮き上がる」という予備知識を持って見れば不自然な浮き上がり方をしているようにも感じますが、
これがカジノロワイヤルの劇中シーン。
メイキングでは足側を抜けるようにして横転していますが、劇中では頭側を通った際にコントロールを失って横転するシーンを追加してよりドラマチックに。
車が跳ね上がる瞬間の映像も上手く加工されて不自然さが消されていますよね。
その後は見事な7回転を決めてスタント完成。
幻の世界記録?
最後におまけとしてスタントマンのゲイリー・バーンズ氏をご紹介。
※カジノロワイヤルのスタントマンとは一切関係ないので悪しからず
映像は1990年に撮影されたものです。
使用された車はルノー・フエゴ。ご本人の回想では時速80~85マイル(128~136km)ほどのスピードだったようですが、ピストン装置ではなく傾斜を使ってクルクルと回転。
公式なものとしては認定されていないようですが映像ではしっかりと8と1/4回転を記録していますよね。
以上「007 カジノ・ロワイヤル」のボンドカー横転シーンについてアレコレでした。