スピードスケートではレース後になぜフードを脱ぐ?ウェアの問題を深掘りしてみると
100分の1秒のタイムを競う氷上の戦い。スピードスケート。ゴールラインを越えた直後にすぐにフードを脱いで、ファスナーを下げる姿が気になるという人は多いのではないでしょうか?
この疑問に対する答えとして多くのメディアでは「前傾姿勢に合わせて作られたウェアだから」というものが一般的なのですが、さらにこれを深掘りしてみると、その理由にはレーシングスーツの開発が深く関わっているということでご紹介します。
スポンサーリンクメダリスト高木美帆の回答
2月27日放送のフジテレビ系「直撃LIVE グッディ!」の内容から。平昌オリンピックで金銀銅の3個のメダルを獲得した高木美帆選手が生出演し、スピードスケートに関する様々な疑問に答えるという企画が放送されました。
そこでMC役の高橋克実さんの質問、
「モジモジくんみたいなとっから急に髪がファサファサってなるのがものすごくセクシーな感じなんですけど、必ず終わった直後じゃないですか?」とフードを脱いだりファスナーを開ける選手の仕草についての疑問ですね。
これに対して高木美帆選手は「ファスナーを開けるのは苦しいんです。呼吸が早くなっているってのもあるんですけど、スーツ自体を少しキツめ、タイトめに作っていて、余分な布があると抵抗が出てきてしまったりするんで、動きやすく、タイトめにっていうのと、体の補正も込められていて。」
「キツイのですぐファスナーを下ろしてしまうんですけど、帽子もそういう所があるんです。一番姿勢を取りやすい位置でセッティングされてるので、(滑っている時の)首を上げる姿勢は楽だけど、立つと首の後ろがきつかったりだとか。」
「あとはやっぱ顔を出したいっていうか、いつまでも被っていたくないというのもあるかもしれないですね。ホントにモジモジくんじゃないですか。」
最後はおどけて答えたくれた高木美帆選手でした。
スポンサーリンクレーシングスーツの開発
滑る姿勢に合わせてスーツが作られてるからレース直後の立った状態だとキツく感じ、すぐにフードを脱ぐという答えなのは分かりましたが、気になるのが高木美帆選手の語っていた「体の補正」という部分です。
それには新型レーシングスーツの開発が深く関わっていたのです。
2014年のソチオリンピックでは日本スピードスケート陣のメダル0という屈辱の結果を受けてのものでした。
日本チームのスーツ開発を担当しているのはミズノ株式会社の辻中克弥さんという方。
スーツの出来栄えもタイムに影響すると言われるスピードスケートでは開発者の悔しさも選手同様。
2014年当時のスーツでは開発目標として姿勢保持、動作サポート、動きやすさという点が重要視されていました。そのため選手の動きを妨げないように柔らかい生地を多用してスーツは作られていたのです。違和感なく前傾姿勢が取れる事を意識したものですね。
しかし、コーチとしてオランダから招聘されたヨハン・デ・ヴィットコーチは全く逆の発想をしていたのです。
ヨハンコーチが開発チームに出した要望は立てないくらいに体を締め付けるスーツだったのです。それは一体なぜなのでしょうか?
それまでの動きやすさを重視したスーツでは疲れが出るレース後半に選手のフォームが立ち上がってしまうという問題点を抱えていたのです。
一方、立てないぐらいきついスーツであればレース後半でもフォームを維持できるというわけですね。
スポンサーリンクそして、新型レーシングスーツでは伸び縮みしにくいウレタンラミネート素材を多用するものになったのです。しかしある課題も浮かびます。
伸び縮みしにくい素材は選手の体型にジャストフィットさせるのが難しかったのです。
僅かなシワでも空気抵抗になって邪魔になるためこの問題は解決しなくてはいけません。ミリ単位での調整が続けられました。
それは平昌オリンピック会場の一室に専用ミシンを持ち込みオリンピック期間中にも続けられました。映像では指ひとつまみ分まで微調整するシーンも。
その日の選手の体調や現場の環境によってもスーツの着心地は細かく変化するそうで、それに対応するための努力だったというわけですね。
ここまできっちりと作られたレーシングスーツですから過去のスーツと比べてもかなりキツくなっているはずですね。
前傾姿勢に合わせて作られているだけでなく、普通に立てないぐらいのスーツになっているから選手たちはすぐにフードを脱ぐということがお分かりいただけたかなと思います。
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