球団スカウトは選手のどこを見ているのか?故・星野仙一はドラフトの舞台裏で何を語っていたのか?
チームの将来を左右するドラフト会議。そこは各球団がペナントレースとは違った攻防戦を繰り広げる戦場です。それに先だって開催される戦略会議では球団が抱えるスカウトたちがドラフト候補選手を首脳陣にプレゼンし、誰をどのタイミングで指名するのかを決定しています。
そんな知られざるドラフト会議の舞台裏は通常であれば完全非公開ですが、3月10日放送の「バース・デイ【楽天スカウト ドラフト会議の舞台裏】」ではカメラが初潜入。有望選手獲得のためにスカウトたちが立てた秘策とは何だったのでしょうか?そして2018年1月に亡くなった星野仙一副会長の生前の雄姿とは?
また、他球団からも一目置かれる東北楽天ゴールデンイーグルスの名スカウト、後関昌彦の選手発掘方法の一端についても触れていきます。
スポンサーリンクスカウトの仕事
2018年シーズンのプロ野球新人選手は114名。プロを目指す選手たちの橋渡し役は各球団のスカウトです。
アマチュア時代にほとんど無名だった選手がチームの重要な戦力として活躍することは決して珍しいことではなく、東北楽天ゴールデンイーグルスであれば、2016年ドラフト5位だった森原康平投手、同年ドラフト9位だった高梨雄平投手が大きな存在感を発揮しました。
- 後関昌彦
- 上岡良一
- 沖原佳典
- 山田潤
- 愛敬尚史
- 山下勝己
- 大久保勝也
- 鷹野史寿
その中でも敏腕スカウトとして知られるのが南関東地区担当の後関昌彦。年間400試合ほどチェックしているようですね。
将来的に力がついたらどうなるかを想像しながら、何か感じるものがあれば追いかけるというスタンス。
スポンサーリンクこれまで手掛けてきた選手たちはドラフトの順位に関係なく、嶋基宏、聖澤諒、永井玲、美馬学、松井裕樹、オコエ瑠偉、藤平尚真、高梨雄平などです。ほぼ全て一軍で活躍しています。
2016年ドラフト9位で入団した高梨雄平はそれまで社会人野球JX-ENEOSに所属。ベンチ入りすらままならない補欠ピッチャーでした。後関スカウトは高梨のピッチング映像を自ら撮影し、細かく観察していました。大学時代には既に目をつけて、他の球団が見向きもしなかった高梨の調査を辛抱強く続けていたのです。
2016年春では上手投げのフォームで平凡な印象だったのが、2016年のドラフト直前にはサイドスローに転向。
ボールになってもインサイドを攻める点、そして左のサイドスローであること、このことから後関スカウトはプロで通用すると確信します。左の中継ぎが補強ポイントだったことも決め手の一つでした。
そして思惑通り、他球団がノーマークだった高梨は楽天のユニフォームに袖を通します。新戦力は期待通りの活躍を見せ、プロ1年目のシーズンは46試合に登板し、防御率1.03という数字を残しました。
「足を運んで下さってたのも楽天だけだったので、後関さんの熱意がなければ僕はここにいないので、本当に感謝してます。」と語る高梨。
スポンサーリンクスカウトは選手のどこを見るのか?
人が人を評価する難しさを身に染みて実感している後関スカウトは毎年毎年が勝負と語りますが、そんな後関スカウトが日頃のスカウト活動であることを心がけているそうです。
気になる選手がいれば現地に何度も足を運び、自分の目で見極めること。観察するのは野球のプレーだけではなく、プレーの後の選手の様子も重要視しているようです。ベンチに引き揚げていく選手の姿もしっかりと見ています。
「マウンドから降りていく姿とか、性格が出てくると思うので、そこじゃないと観られない部分もあるので、現地で観るってのがまずは鉄則です。」
後関スカウトのミッション
2017年8月球団スカウトが一堂に会した会議で、立花球団社長が来季の補強ポイントを告げます。外国人選手が活躍している現状で、どうしても欲しいのは日本を代表するような大砲。和製大砲の獲得がスカウト陣に課されたミッションです。
候補はこの3人。早稲田実業の清宮幸太郎を筆頭に、履正社の安田尚憲、九州学院の村上宗隆。高校球界の代表的スラッガーたち。当然ながら彼らは他球団もマークを外すわけもなく、激しい争奪戦は必至です。
そこでスカウトたちは「確実に獲れる大砲候補を探す」というゴールを目指します。
後関スカウトの脳裏に浮かんだのは東京六大学リーグ慶應大学で4番を打つ岩見雅紀。187cm、108kgの体格から放たれる特大のホームランは魅力的です。ドラフト直前の秋季リーグでは13試合で7本塁打と目立った成績を残しました。
しかし後関スカウトは数字ではなく岩見のある変化に注目します。映像はもちろん後関スカウトが自ら撮影したものです。
スポンサーリンク「(春は)空振りするような高さのストレートをファウルするようになったんですよ。例えば2ストライクと追い込まれて高めのボールで春は空振り。それがファウルってことはもう一回チャンスがあるわけですよ。粘って打ったりとか、それが次の打席に繋がるんで、やっぱ秋になって一気に評価が上がったんですよね。」
ドラフト前日の星野仙一
2017年10月25日 ドラフト前日。会場となるホテルの一室に楽天のスカウト陣が集まります。
ドラフト候補達を球団首脳陣にプレゼンする正念場は原則非公開の特別な舞台です。
そして午前11時、ハットを被ってやってきたのは星野仙一球団副会長。
2018年1月にすい臓がんの為に70歳でこの世を去った星野仙一はその3か月前、ごく一部の関係者以外に病状を伏せたままこの会議に出席していました。
誰をどの順位で指名するのか最終決定権を持つ星野副会長にスカウト陣が決めたプランを提案するのが例年の習わしです。
3巡目指名手前で会議がストップし、上位指名を誰にするのか絞り切れない状態であることを伝えらえた星野副会長は、「ホンマにいねぇのか?いたらどうするんだお前ら?見逃してねぇだろうな。こんなええのがおったやないか。(となるとどうするんだ?)」と、語気を強めたり、時に笑みを浮かべたりとスカウト陣に発破をかけます。
スポンサーリンクドラフト戦略会議
梨田昌孝監督と立花球団社長も到着していよいよドラフト戦略会議がスタート。
まずは目玉となる清宮幸太郎について。打撃については強さと柔らかさを両方持っているバッターという評価です。
1年目からの起用を気にする立花球団社長に梨田監督次第と答える星野副会長。
足の速さについて気にする梨田監督。一塁到達まで4秒3で意外と速いというデータのようです。
続いては九州学院の村上宗隆について。DeNAの筒香を超える存在になりえる、鍛えるだけの価値のある選手という評価。和製大砲としては筒香選手が一つの基準、ベンチマークとして挙げられているんですね。
そして、いよいよ後関スカウトの出番。自信を持ってプレゼンするのはもちろん慶応大学の岩見雅紀。
スポンサーリンク一目見た星野副会長は笑いながら「デカいな。イ・デホみたいやな」とその第一印象を語ります。
「重心が低くなってボールをしっかり見られるようになってから、特にこの秋記録を塗り替えるぐらいの、現状で7本です。一発で試合の流れを変える力を持ってます。なかなかいないぐらいのパンチ力は持ってます。」
これに対して星野副会長は「そういうの欲しいな。」としみじみと漏らします。
全プレゼンが終了した直後には開口一番「いるじゃねぇか。」と一言。
ドラフト戦略会議の場は星野副会長の言葉次第で和やかになったり、ピリッと張りつめたりとまさにゴッドファーザー。
スポンサーリンクまず第一指名については競合多数になることが容易に想像出来る清宮幸太郎の争奪戦に参加するのか、それとも避けるのかの決断に迷う所ですが、弱気な態度を良しとしない星野副会長は、
「喧嘩せんと逃げとったらアカン。」と一刀両断。和やかな雰囲気ですが、鶴の一声で清宮獲りは決定。外れ1位は将来性を見込んで九州学院の村上に。
立花球団社長は「星野さんは逃げないですよ。」とおっしゃってますが、この時がんとの闘病をしていたであろう闘将の一言は重たいですよね。
ドラフト当日
2017年10月26日 ドラフト当日 本番5時間前。他球団の動向を探りつつ2巡目の指名を最終確認していた所ニュースが。
後関スカウトが推す慶應の岩見を複数球団が2位指名する可能性について伝えられます。
星野副会長「スワローズが獲るかも分からんな。神宮育ちだから。」
岩見の指名についてなかなか結論が出ない状況に後関スカウトから最後のアピール。「岩見っていうのは順調に言ったら40発打てる可能性は持ってる。」これには「マジで!?」というおそらく立花球団社長と思われる声のリアクションもありましたね。
「一浪して入っている事でやっぱ必死さは凄く感じる。」一浪しているという点からハングリー精神を感じ取っているようです。
最終的には清宮が獲れる可能性も加味しつつ、状況が刻一刻と変わっていくのに対応して指名順については変化させていくことに決定。
スポンサーリンク「流れでいくしかないじゃない。テーブルで決めるしかない。」星野副会長は何かお菓子のようなものをつまみながら指名方針について最終確認します。
拍手で解散しますが、「終わった後も拍手しような」と星野副会長はその場を和ませます。
ドラフト会議本番
後関スカウトは球団首脳陣と共に最終決定を下すテーブルに着きます。
清宮幸太郎についてはご存知の通り楽天を含む7球団が競合。かつて5球団が競合した松井裕樹を引き当てたのは立花球団社長でした。
スポンサーリンク結果は北海道日本ハムファイターズ。「本当に強いね。日ハム」と漏らす関係者。
ヤクルトスワローズの獲得が決定した際には机をたたいて悔しがります。清宮は厳しくても確率的にせめて村上はという思いがあったんでしょうね。まさに悲喜こもごも。
結局楽天が1位指名に選んだのは岡山商科大学の近藤弘樹投手。村上まで外してしまった場合は大砲ではなく即戦力投手を獲得すると前日の会議で決定したのを受けてのものでした。
ただ、後関スカウト一押しの慶応、岩見は是非とも欲しいところです。
スポンサーリンク2巡目は成績下位から順に指名し交渉権が確定しますが楽天は7番目。先にどこかが指名すれば万事休すです。
続々と2巡目指名が読み上げられますが楽天はもくろみ通り、岩見を獲得。会場はどよめきが起こります。笑みを浮かべる首脳陣。
岩見の活躍に期待を寄せる後関スカウト。
「大砲っていう所で岩見君が獲れたのはベストだと思ってるんで。」
「とにかくね。一人でも多く、脇役でも何でもチームにとって獲って良かったって思える選手を獲れれば一番いいと思ってます。」