マスターズゴルフ屈指の難所、アーメンコーナーの意味や由来は?その歴史について
全世界のトップゴルファーたちが一同に会すマスターズ・トーナメント。数ある大会の中でも別格のタイトルに位置づけられるビッグトーナメントなのは言うまでもありませんね。そんなマスターズが開かれるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブにはトップゴルファーでさえその攻略に手こずる難所が存在します。それが通称「アーメンコーナー(Amen Coner)」と呼ばれるホールです。
毎年、数多くのドラマが生まれることで有名な11番ホールから13番ホールにかけての3つのホールを総称してこう呼びますが、それでは世界のトッププロたちが口を揃えるその難しさは一体どこからくるのでしょうか?またその意味や由来は?
というわけで、そんなアーメンコーナー誕生の歴史について3月24日にTBS系で放送された「マスターズ4月5日開幕!マスターズトリビアSP」を元にご紹介します。
スポンサーリンクアーメンコーナーの誕生
ロリー・マキロイやジェイソン・デイもアーメンコーナーは当然のように警戒。
「(優勝するには)アーメンコーナーでの最高のプレーが必要だ。」
そもそも、この「アーメンコーナー」という呼び名が初めて使われたのは1958年のマスターズ・トーナメントの事。
アーノルド・パーマーの初優勝に沸いた第22回大会でのことでした。
その激闘を伝えるスポーツ雑誌のある記事がその起源となっているわけですが、
その雑誌が「スポーツ・イラストレイテッド」。
1954年の8月から現在でも刊行が続いている長い歴史を誇る老舗スポーツ雑誌ですね。
パーマーの優勝を決定づけた最終日の11番ホールから13番ホールに関する記事の冒頭にアーメンコーナーという名称が登場します。
記事のタイトルは“The fateful corner=運命の曲がり角”となっていますが、こちらが実際の記事。
1958年4月21日号に掲載されたこの記事を書いたのは、
ゴルフ記者のハーバート・ウォーレン・ウィンド(Herbert Warren Wind)という人物。
彼はアーメンコーナーと名付けた理由について1984年のインタビューで後にこう語っています。
「様々なことが起こるこの3つのホールには名前をつけるべきだと考えた。その時にふと思い出したのが懐かしい曲だった。特に変わった曲ではなかったがタイトルが魅力的だと感じたんだよ。」
その曲がジャズナンバーの”Shoutin’ in that Amen Corner”。
ミルドレッド・ベイリー(Mildred Bailey)による1930年代のヒット曲。
曲を聴いていただければ分かりやすいですが、アーメンは英語では「エイメン」と発音するほうが正しい発音に近くなりますね。
スポンサーリンクこの曲をヒントに命名されたアーメンコーナーはオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブの難しさを表す象徴として広く使われるようになっていく事に。
ちなみに11番ホールから13番ホールにかけてをアーメンコーナーと呼ぶと思っている人が多いかもしれませんが、
命名者であるハーバート・ウォーレン・ウィンドによると、
アーメンコーナー:レイズクリーク(小川)が13番のティーから12番のグリーンに沿って流れ、11番のグリーンをぐるりと囲むエリア
つまり、アーメンコーナーとは以下の画像のように、レイズクリークが流れる周辺のエリアを指し、
「11番ホールのグリーンに乗せる2打目以降から13番ホールのティーショットまで」
を表現するのが本来の意味なのです。
アーメンコーナーの難しさとは?
これまで数多の選手を翻弄してきたアーメンコーナー。
ではその難しさはどこからくるものなのでしょうか?
そこに潜む巧妙な罠とは一体何なのでしょうか?
それぞれのホールごとにその妙について見ていく事にしましょう。
11番ホール – 「風と池」
アーメンコーナーの口火を切るのが11番ホールの505ヤード、パー4。
1942年から2017年のデータでは、
ホール難易度で2位。
平均スコアは4.29。
オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブのパー4の中で最も距離が長く、18ホールでも屈指の難しさを誇ります。
ダスティン・ジョンソンやロリー・マキロイは11番ホールの難しさをこう語っています。
オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブでは1番ホールから10番ホールまで池や小川などのウォーターハザードがなく、
11番で初めてゴルファーたちに水の怪物が牙をむきます。
さらに12番ホール側から吹き抜ける強風もポイント。
風に運ばれた結果、池ポチャになることもしばしばです。
505ヤードと長いホールの為、セカンドショットで定石通りグリーン手前から攻めようと考えがちですが、
グリーン手前にも仕掛けられた巧妙な罠、画像の赤いエリアにあるコブにボールが当たってしまうとボールは池に向かって弾かれて奈落へと真っ逆さま。
その為、グリーン手前を避けて、一端右サイドにボールを外しておいて、グリーン右からのアプローチで勝負する選手も少なくありません。
1951年、1953年のマスターズを制しているベン・ホーガンはこんな言葉を残しているそうです。
「11番の第2打がグリーンに乗ったら、それはミスショットだと思ってくれ。」
ウィットに富んだおしゃれな言葉ですよね。
そんな厄介な11番ホールですが、歴史に残るミラクルショットが生まれることでも有名です。
スポンサーリンクそれが1987年のマスターズ大会。
グレッグ・ノーマンと地元オーガスタ出身のラリー・マイズによるプレーオフ。
マイズはセカンドショットを右に外し、ピンまで40ヤードを残しノーマン圧倒的有利の状態に。
ノーマンのボール位置と比べると圧倒的不利な状況ですが…一体何が起きるか?
以下の動画は1987年マスターズでのラリー・マイズの奇跡の3打目を紹介する動画です。
奇跡的なチップインバーディーを決めたラリー・マイズが初のメジャータイトルを獲得したのでした。
カップに沈めた瞬間、ジャンプしながら体を反らして大喜びするマイズの姿が印象的ですね。
対照的にノーマンは「あれはしょうがないよ…」とキャディに肩を叩かれているようにも見えますよね。
12番ホール – 「世界一美しく残酷」
世界一美しいショートホールと称される12番の155ヤード、パー3。
1942年から2017年のデータでは、
ホール難易度で4位。
平均スコアは3.28。
155ヤードと短いため、ティーショットはショートアイアンでも十分に届く距離です。
しかし、2004年、2006年、2010年のマスターズチャンピオンでオーガスタを知り尽くしているはずのフィル・ミケルソンをしてこう言わしめるのが12番ホール。
ダスティン・ジョンソンも「12番は最難関ホールだ。」と同様の意見です。
ではなぜ最も警戒が必要なホールなのでしょうか?
グリーンジャケットを持って帰ってしまった唯一のマスターズ王者(※前回の記事参照)である南アフリカのレジェンド、ゲーリー・プレイヤーによると、
「オーガスタの最も低い場所にあるために風が吹くと上空で渦を巻き、10ヤードの前後のズレが簡単に引き起こされてしまう」
とのこと。
飛距離のコントロールが非常に難しく風に翻弄されるとたちまちクリークの餌食になってしまうという恐ろしいホールなのだそう。
周囲に木々が立ち並んでいる影響で行き場を失った風がグリーン上空で渦を巻きやすくなっているわけですね。
さらにグリーンの奥行きが僅か14ヤードと狭く、手前と奥にはきっちりとバンカーが用意されているという周到さ。
そのため、バーディーを狙うには風を読み切ったうえでの正確無比な一打が要求されるのです。
近年ではこの12番に最も苦しめられた選手として2015年のマスターズ王者、ジョーダン・スピースの名前が挙げられます。
初出場、20歳という若さで優勝争いを演じた2014年のマスターズ大会では首位と1打差の大事な局面。
12番ホールのクリークの餌食に。
このミスでスコアを落としたジョーダン・スピースの最年少優勝という夢は泡に消えました。
2015年には悲願の初優勝を果たしたスピースでしたが、史上4人目の連覇がかかった2016年大会では最終日、単独首位で迎えた12番ホールで悲劇は繰り返されます。
またしてもボールはクリークへまっさかさま。
打ち直した第3打までもがクリークへ。さらにバンカーにも捕まりと散々な結果に。
スポンサーリンク以下の動画は2016年マスターズ大会のジョーダン・スピースの12番ホールの映像です。
こちらの動画はABCニュースの映像から。ミスショットの後にはカメラを遠ざけるよう指示を出してナーバスになるジョーダン・スピースの姿も収められていますね。
スピースの前に1度ならず2度までも立ちはだかったのがこの厄介な12番ホールだったのです。
また、2020年マスターズ大会では前年度覇者のタイガー・ウッズが10打と大叩きしてしまった事も。
スピース同様にこちらも何かの呪いにでもかかったのではないか?と思えてしまう程にクリークに吸い寄せられてしまう悲劇。
余談ですが、12番ホールのグリーンのある位置は「かつてアメリカ先住民の埋葬地だった」なんて噂もまことしやかに流れたりするとか。
では呪われた魔のホールとして誰もが苦しむかと言えば決してそうではなく、運を味方につける選手ももちろん存在します。
1992年のマスターズ大会、2位と2打差の首位で最終日を迎えたフレッド・カプルスの12番ティーショットはクリークの手前でギリギリ踏みとどまります。
以下の動画は1992年のマスターズ大会の映像から。
パトロンたちの落胆の声やそれに続く歓声などが勝負所のアーメンコーナーをさらに彩りますね。
「エラい事になった…」とでも言ってそうなカプルスの沈痛な面持ちが印象的。
以下の動画がそれに続くアプローチショットの映像。
完璧なアプローチショットでリカバリーが上手くいったのを確認し、ホッとしたのか水に沈んでいた違うボールもついでに拾い上げてみたりして。
この苦境を見事なパーセーブでしのいだカプルスは2打差のリードを守って見事に初優勝を手繰り寄せました。
スタンスを入念にチェックしたり、一度スイングを思いとどまるシーンなどにはアーメンコーナーの狡猾な罠に必死に抗おうとするカプルスの精神状態が如実に表れていますよね。
13番ホール – 「易しいがゆえの難しさ」
アーメンコーナーのラストを飾るのが13番の510ヤード、パー5。
咲き誇るつつじの花から通称:アザレア(つつじ)という愛称も有名。
1942年から2017年のデータでは、
ホール難易度で17位。
平均スコアは4.79。
510ヤードとパー5にしては距離が短いためにバーディーやイーグルも狙いやすいオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブで2番目に易しいホールとなっています。
しかし、少しでもグリーンに届かなければ手前を流れるクリークに飲み込まれてパーセーブすら困難になることも。
1998年のマスターズに初出場した日本の丸山茂樹は果敢に2オンを狙いますが、ボールは外れて石段の真下に。
結果はダブルボギーと厳しい洗礼を受けたのがここ13番ホールでした。
ちなみに、13番ホールのワースト記録は1978年に中嶋常幸が記録した13打というのは有名な話。
「13」は海外では不吉な数字ということで、この偶然の一致は多くのゴルフファンにとって記憶されていることでしょう。
あまりに大叩きしてしまったために本人は後に「数え方を忘れた(何打したのか覚えてすらいない)」とさえ漏らしたほどだったとか。
スポンサーリンク流石にそこまでのスコアは滅多に出るものではありませんが、イーグルとボギーなら3打の違いがあり、スコアが大きく動く可能性を秘めるのがこの13番ホール。
最終日の優勝争いでカギを握るホールになることもしばしばです。
セルヒオ・ガルシアとジャスティン・ローズの熾烈な優勝争いが繰り広げられた2017年のマスターズ大会では13番ホールがターニングポイントとなりました。
首位のローズと2打差で迎えたガルシアの13番、ティーショット。
スコアを伸ばすどころか、あろうことかボールは茂みの中に。
ガルシアは絶体絶命のピンチに陥りますが、ここをパーで切り抜けたガルシアは優勝争いに踏みとどまります。
一方、ローズは13番ホールでバーディーチャンスを迎えますが、ごく短い距離のパットをローズは外し、本人もまさかという悔しいパーとなります。
「あの13番のパットをガルシアが外し自分が決めれば4打差だった。」
一気に4打差になるかもしれない場面で2打差のままだったことで優勝争いは続くことになったわけですね。
結果的にプレーオフの末にガルシアが初優勝を果たしますが、終わってみればこの13番ホールでのプレーが二人の明暗を分けたホールになりました。
以上がマスターズ屈指の難所、アーメンコーナーにまつわるアレコレでした。