テニスのハイブリッドストリング(ガット)は主流の張り方?その長所と短所
現在では多くのトップ選手がテニスストリング(ガット)のメイン(縦糸)とクロス(横糸)で違う種類のガットを組み合わせて張る「ハイブリッドストリング(ガット)」の構成で戦っているのがメジャーになってきている感がありますね。事実、そんな流れがアマチュアプレイヤーにも徐々に広まってきているのを肌に感じつつ、
長らくポリ単体張りにこだわっていた私だったのですが、少々事情が変わってきているのでその辺を詳しく書いてみたいと思います。
ナイロンとポリの組み合わせは邪道だと思っている人には必見の内容になっているはずですので是非ご参考に。
※本来、ガットという単語はナチュラルガットを指す言葉であって、ポリガットやナイロンガットという単語は英語圏では妙に聞こえます。ポリストリングやナイロンストリングと表現するのが正しい表記なのですが、記事中ではガットとストリングの単語がごっちゃになって使用されていますので予めご了承ください。
ちなみに英語だとサービスキープなんて言葉も使いません・・・。英語圏ではホールドが一般的ですよね。
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ハイブリッド(張り)とは?
ハイブリッドという単語を聞くと真っ先に思い浮かぶのは車のハイブリッド車(ハイブリッドカー)ですが、元々ハイブリッドという単語には植物や動物の違う種のものを掛け合わせて新しい種を作るという意味があり、
「違うものを組み合わせる」という意味で使われるのが一般的ですね。
単語の起源は1600年頃まで遡り、家畜の雌豚と野生の雄イノシシを掛け合わせて出来た種を表すラテン語の”hybrida”という単語がハイブリッド(hybrid)の語源となっています。
先のハイブリッドカーの例では電気とガソリンという異なる動力を組み合わせているためにハイブリッドの単語が使用されていますが、例えば「テレビジョン」という単語はギリシャ語のテレとラテン語のビジョンを掛け合わせて作られた「ハイブリッド語」という表現もします。
話しが逸れてしまいましたのでテニス界におけるハイブリッド(張り)に話題を戻しまして、
テニスのストリング張りはメインの縦糸とクロスの横糸で構成されますが、縦と横の組み合わせで「違うストリングで張り上げるパターン」を全てハイブリッド(張り)と表現します。
現在、手に入るストリングの主な種類ではナチュラル(ガット)、ナイロンマルチ、ナイロンモノ、ポリエステルに大別されますが、縦と横で違うストリングを使用すれば全てハイブリッド張りになります。ということは、縦横で違う種類のポリガットで張った場合もハイブリッド張りと呼ばれるんですね。
要するに異素材の組み合わせでなくてもハイブリッド張りというわけですね。
スポンサーリンク例えばスペインのフェリシアーノ・ロペスはメインにルキシロン・アル・パワー 16L(1.25mm)を張り、クロスにルキシロン・エース(ビッグ・バンガー) 18G(1.12mm)を張るというポリ×ポリの組み合わせでハイブリッド張りにしていたり。
あまりメジャーではありませんが、ナイロン×ナイロンで違うストリングを使用した場合でも当然ながら、ハイブリッド張りと呼びます。
このハイブリッド張りについてですが、1970年代にナチュラルガット(メイン)とナイロンガット(クロス)を組み合わせて使われ出したのが始まりだと言われており、レジェンドプレイヤーであるアメリカのアンドレ・アガシが1990年代に導入したのがきっかけで大きく広まったとか。
当時のアガシはメインにケブラーストリング、クロスにナチュラルガットという構成で張っていたようですが、メインに張っていたケブラーは後にビッグ・バンガー→アル・パワーと変遷していったようです。
※ケブラーはポリガットが広まる前に耐久性のみを追求したストリングとして一部で使われていたもので、防弾チョッキに使われる素材として有名ですよね。一応、今でも販売されていますが過去の製品となってしまっている感があります。
ちなみにハイブリッドを導入した頃のアガシ(1993年~1998年頃)はラケットのストリングパターンが20 × 21というものを使用していたので現在のハイブリッドとは打感そのものが違うかもしれません。※現在は16 × 19のパターンが大半。その次に多いパターンが18 × 20でコントロール性を重視して選ぶ選手もいますが。
さらにその後、テニス界のシンボルとして長らく頂点に君臨することになるロジャー・フェデラーが2002年頃に英国のティム・ヘンマンの勧めでハイブリッド張りで戦うようになって、ハイブリッド張りは通称「フェデラー張り、フェデラーハイブリッド」とも呼ばれるようになり、急速に広まっていきました。
今ではフェデラーのハイブリッド張りがチャンピオンズチョイスとして製品化されていたり。
2002年と言えばフェデラーが使用ラケットのヘッドサイズを85インチから90インチにアップさせたタイミングと大体同じぐらいですね。
ハイブリッドガットの特徴とは?
元々はストリングメーカーで後にラケットメーカーとしても知られるようになったフランスのバボラ(Babolat)では「ラケット」と「ストリング」の2つの要素をそれぞれ50%、50%としてボール打球時のパフォーマンスが決まるとしていますが、
その中でもストリングの張り方をハイブリッド張りにすることで“プレイヤーのポテンシャルを最大限に引き出すことが出来る”と堂々と宣言されています。
バボラのハイブリッド張りで代表的なパッケージがコチラ。
また、同じくラケットとストリングの両方を取り扱うウィルソン(Wilson)やヨネックス(Yone×)でもハイブリッド張りについてはかなりポジティブな意見を寄せています。
そんなメーカーでハイブリッド張りの特徴として語られることが多いのは、
『ポリエステルガットのスピン性能や打球スピードなどの特徴を生かしつつ、ポリガットの「硬い」というデメリットを和らげるためにナチュラルガットやナイロンガットを組み合わせてプレイヤーにかかる負担を低減する。』
というものですね。
2017年のデータでは男子テニスのATP世界ランキングトップ10の70%、女子テニスのWTA世界ランキングトップ10の80%がハイブリッド張りの構成でテニスツアー戦線を戦っているというデータもありますね。
ちなみに世界ランキングトップ20にまで広げるとATPでは45%、WTAでは65%のプレイヤーがハイブリッド張りを採用しているというデータもあります。
ハイブリッド張り=プロ選手だけのもの?
ハイブリッド張りと言えばフェデラー張りと言われるほどにメジャーな存在となったロジャー・フェデラーは、
メイン(縦糸)にナチュラルガット(ウイルソン ナチュラル) × クロス(横糸)にポリガット(ルキシロン アル・パワー・ラフ(ALU POWER ROUGH)の組み合わせ。
日本の錦織圭は、
メイン(縦糸)にポリガット(ルキシロン 4G 125) × クロス(横糸)にナチュラルガット(ウィルソン ナチュラル16)
で張っていた時代もありましたし、現在では、
メイン(縦糸)にナチュラルガット(ウィルソン ナチュラル16) × (ルキシロン 4G) × クロス(横糸)にポリガット(ルキシロン 4G 125)
※さらに変更があって2018年シーズンの錦織圭は縦にナチュラルガット× 横にポリエステル(ルキシロン エレメント)の組み合わせ。
ドミニク・ティエムは、
メイン(縦糸)にナチュラルガット(バボラ VSチーム 130) × クロス(横糸)にポリガット(バボラ RPMブラスト 125)の組み合わせ。
※2019年シーズン前半からはポリガット(バボラ RPMパワー)のみの構成。
ちなみに女子の大坂なおみは、
メイン(縦糸)にポリガット(ヨネックス ポリツアープロ) 125 × クロス(横糸)にナイロンマルチ(ヨネックス レクシス 130)。
特に大坂なおみのセッティングはアマチュアプレイヤーにとってもぐっと身近に感じられるおすすめの組み合わせだと思います。
とにかくナチュラルガットは値段の高さが最大のネックとなってなかなか手が出しにくいため、アマチュアにとってはポリガットとナイロンガットの組み合わせこそがハイブリッド張りのスタート地点と言ってもいいかもしれません。
スポンサーリンクポリ単体こそ男(漢)のセッティング?
これまでの私のイメージとしてはポリガット単体で張る構成こそが男(漢)と思っていました。
例えば、ラファエル・ナダルが良い例ですよね。
バボラ Duralast(デュララスト)→バボラ・プロ・ハリケーン・ツアー135→バボラ・RPMブラスト135と使用ストリングを変えてきたラファエル・ナダルですが、いずれもポリ単体で張っており、ハイブリッド張りには手を出していません。
練習からハードヒットするのが彼の信条、ポリシーのようで、ボールがかわいそうになるぐらいに全力でボールをぶっ叩いていきますよね。
確かにポリガット単体張りこそ男(漢)の生きる道なのはそれもそうなのかもしれませんが、テニスのパフォーマンスにおいてはポリガットだけにこだわるのはもったいないような気がしているのが正直な所です。
特にウィルソンのウェブマガジンで掲載されている情報(後述)では「メイン(縦)ナイロンマルチ × クロス(横)ポリガット」の組み合わせがボールスピード、スピン量共に最高の組み合わせであるという実験結果が発表されているのを見ると、ハイブリッド張りも試してみたいなと思ってしまいますね。
縦にポリ?横にポリ?
このページをお読みの方はハイブリッド張りに少なからず興味ある方のハズですが、
ポリガットとナイロンガットのハイブリッド張りを試してみる場合に、縦にポリガットを持ってくるのか、横にポリガットに持ってくるのかによって性質が変わってくることに注意が必要です。
一般的に、
スピン量を増やしたい場合は、昔の錦織圭のように縦ポリの構成が適していると言われています。
というのも、ストロークではラケットを横向きにして使うため、スピンをかけるために動くストリングは縦糸。
その縦糸にポリを張ったほうが、当然スピンはかかりやすいことになります。
横糸はナイロンモノが選択肢ですが、実はスピン量だけに着目すると縦にポリを張ると、横にナチュラルガットを張ろうが、ナイロンガットを張ろうがスピン量は変わらないというデータがあるそうで、そのデータを信用するのであれば横糸はコスト面で圧倒的に有利なナイロンモノでOKとなりますね。
もちろん大坂なおみのように横にナイロンマルチを張る構成でも良いですけど。
では、横ポリ、縦ナイロンの組合せ(ある意味、疑似フェデラー張り)にするとどうなるか?についてですが、こちらは、スピン量では不利になるもののボールの飛距離が出やすく、さらにポリの最大の弱点とも言われる打球感の硬さを柔らかくマイルドにしてくれるというメリットがあります。
違う言い方をすれば、スピン量よりも、ボールのタッチ感を重視して、ボレーなどでも使いやすい構成と言えるかもしれません。
つまり、ダブルスプレイヤーであれば横にポリガットを張るのは選択肢としてアリ。
その打球感などのメリットをダブルスではより生かしやすいですよね。
スポンサーリンク縦横については試してみるしかない?
とこんな具合で、縦ポリまたは横ポリの特徴についておおまかな特徴について書いてみましたが、
実は「実際に打ってみないと分からない」というのが答えだったりもします。
というのも、
こちらのウィルソンのウェブマガジン記事、
スピン・モンスター「BURN 100S CV」×ストリング・セッティングで自分仕様にカスタマイズ!それにより引き出される能力とは!?
を読んでいただければ詳細がはっきりしますが、
縦ナイロン、横ポリで張った構成がスピン量、打球スピードの観点で見たときに最高のパフォーマンスが出るケースが多いという一応の結論が導き出されているものの、中にはナイロン単体、ポリ単体で張った時の方が最高のパフォーマンスが出ているプレイヤーもいたりしてかなりカオスな実験結果となっています。
テスターの年齢やプレースタイルからも一概に「スイングスピードが速く、パワーもある」からと言ってポリ単体がベストとは限らないという実験結果はかなりショッキングです。
ボールを鬼のようにブッ叩くのを信条とする漢の中の漢のようなプレイヤーでも縦ポリ × 横ナイロンのハイブリッド張りでベストパフォーマンスを引き出せるかもしれないというわけです。
これまで私が持っていた偏見のような固定観念が崩されたのはこのデータからです。
しかし、注意点が一つ。
このウェブマガジンのデータを参考にするなら「縦にポリ?横にポリ?」の比較についてはただの机上の空論でしかなく、長々と講釈を垂れてるサイト(私のこの記事も含め)の情報も多く目にしますが、正直な所、打ってみて自分で判断するしかないというのが真実だと思います。
一応、前述の記事を参考にするのであれば、とりあえず、ハイブリッド張り事始めとして、
縦ナイロン × 横ポリの組み合わせからスタートさせて、感触を確かめた後に縦ポリ × 横ナイロンの組み合わせもチャレンジしてみて比較するという方法を取るのが無難でしょうか。
また、それまでにポリ単体張りに慣れているポリユーザーは縦ポリ × 横ナイロンからまず試してみるべきで、逆にナイロンユーザーだった方は縦ナイロン × 横ポリから試してみるべきというのが私の個人的なオススメ。
というのもポリ単体からいきなり縦ナイロンに移ると、ナイロンの飛びの良さに戸惑う可能性が高いうえに、速攻でストリングが切れる可能性も高かったり(ウォーミングアップ10分で切れたという個人的経験談アリ)、
ナイロン単体から縦ポリにすると、その打ち味の硬さや、ボールが飛ばない感覚が合わないと感じてしまうかもしれませんし。
と言いつつも結局はナイロン単体やポリ単体がベストかもしれないということも忘れてはいけませんが。
その他にストリングの断面に視点を移してみると、製品パッケージ化されているヘッドのグラビティも気になる所。
三角形のストリングを縦に、丸いストリングを横に張る事でボールを最大限捉えつつ、丸形で細めの横糸が縦糸との摩擦を減らして速いスナップバック効果をもたらすのでスピン量が向上するという製品コンセプト。
とは言ってもストリングの断面形状にまでこだわりだしたらハイブリッド張りの沼にどっぷりなのでほどほどに。
ハイブリッド張りのデメリット
ここまでメリットばかりに注目して来ましたが、
ハイブリッド張りのデメリットとしては第一に「テンションロスの激しさ」が挙げられると思います。
縦と横で性質の異なるストリングを張るので、縦だけ先に(もしくは横だけ先に)テンション低下が進んで打感が低下しやすいというわけですね。
ですからハイブリッドで張ると長くもたないのが普通なので張り替えの頻度は高めにを意識しましょう。
ちなみにストリングメーカーのテクニファイバーでは縦と横で異素材を組み合わせるハイブリッドについて、このテンション維持の問題からメーカーとしてオススメしていなかったりするので、メーカー側からしてもこれは悩みの種だったりします。
そしてこのテンション維持性能の縦横差がもう一つのデメリットも生んでしまうのですが、それが「ラケットが歪む」という点。
ポリ単体、ナイロン単体などでストリンギングしていてもラケットというのは大なり小なり歪むのが普通なのですが、これがハイブリッドになるとその歪みが顕著に出たりするんですね。
ラケットが歪めばボールが一番飛ぶポイントが微妙にズレたりして、理想的な打点できっちり捉えて打てていても何故かカスれた当たりになったり、バックハンドは飛ぶのにフォア(ボレーもしかり)がなぜか飛ばないなんていう変な感覚の要因になったり。
特に長年使い続けていてラケット自体がくたびれて劣化している場合は盛大に歪んじゃったりするので要注意。
そしてハイブリッドのデメリットとは少し論点がズレますが、ナイロンストリングはナチュラルガット同様に水分を吸いやすい性質があるので、ナイロンが絡んだハイブリッドで構成している場合は雨の日には要注意です。
ナチュラルガットは濡れるとさきイカよろしく見るも無残な姿になってしまうので“やっちまった感”が一目瞭然ですが、ナイロンは見た目に分からないのでなかなか曲者。
ナイロンは雨に濡れずとも湿度の影響をポリとは比較にならない程受けやすいので、繊細に扱うべきと心得ておきましょう。
テンションについて注意点
現在、市販されているハイブリッド張り用のパッケージ商品(ポリ × ナイロン or ナチュラル)では、ナイロンストリングやナチュラルガットのゲージ(太さ)が一つ上のものが組み合わさっているケースが多いですよね。
これは、過度な飛びを抑えるために柔らかいストリングであるナイロンやナチュラル側を1段階太いものにして調整するためという狙いがあったりします。
また、ナイロンガットのほうが耐久性が低いのでナイロンがポリに力負けしないように太いものにしているという面ももちろんありますね。ポリがナイロンをどんどん削っていくので同じゲージだとナイロン側が先に消耗するはずです。
ですから、既にセット販売されているパッケージを購入するのではなく、単体で販売されているものを組み合わせて使う(そちらの方が安く済む上に好きなハイブリッド構成に出来る)場合はナイロン側を1ゲージ太いものを用意してみるのがおすすめです。
もちろん、同じゲージ同士でハイブリッド張り(※パッケージ品でそのような構成の製品もあります)にしてみて試してみるのもアリだと思いますので、ご参考までに。
また、テンションの設定についてですが、縦と横でテンションを変えるというセッティングもプロ選手の間で広まっており、横糸を2lbs(ポンド)から4lbsほど下げるのが主流になっていたりしますね。こうする事でボールがよく跳ぶエリアが広がる効果があるんだとか。
ポリ単体で張っている選手の中でもよくあるテンションの設定方法なのですが、ポリ × ナチュラルのハイブリッドでも横のテンションを下げて張るのはよく見るパターンで試してみる価値はありそうです。
というわけで、ポリ × ナイロンの構成でも同じように横糸をちょっと緩めに張るセッティングはアリですね。
以上、ハイブリッド張りについてアレコレでした。是非ご参考に楽しいテニスライフを。