なぜサッカーの2-0リードは危険なスコアなのか?ただの俗説・迷信?データ分析してみると
FIFA サッカーワールドカップ ロシア大会2018でベスト8進出を懸けた日本代表vsベルギー代表の一戦。結果は2-0リードからの逆転負けで最終的には2-3のスコアで日本代表は惜敗。日本サッカー史上初のベスト8進出は夢と消えてしまいました。よくサッカーでは「2-0は最も危険な(点差)リード」と言われるのですが、それは一体なぜなのでしょうか?それともただの俗説・迷信の類なのでしょうか?
このサッカー界の有名な格言として知られるものの裏側についてデータに基づいて検証してみる事にしましょう。また、比較として1-0リード、3-0リードなどについても合わせてご紹介。
スポンサーリンク目次
2-0リードの怖さ
まず2-0リードが最も危険なスコアと言われる俗説・迷信について。
2点を先取したチームからすれば勝利が見えてくるということもあって気持ちに余裕が生まれます。それは一見大きなアドバンテージに思えますが、悪い言い方をすると「気が緩む」わけです。
また、2点差を守り切ろうと消極的で無難なプレーに終始してしまう傾向もあり、1-0の1点差リードに比べると「がむしゃらさ、必死さ」などのハードワークが失われてしまうと言われています。
ではそんな状況の中でもし2点差を追いかけるチームが1点を取り、2-1のスコアになった場合はどうなるでしょうか?
それまでリードしていたチームは突然、メンタル的に不安定になり、このまま1点差守るのか?それともリードを広げるために攻撃に出るのか?チーム内の意思統一がバラバラになり、急速にプレーのリズムを失っていきます。
もはや1点差のリードでは「追いつかれるかもしれない。」というネガティブなイメージばかりが先行してパニックに陥ってしまうわけですね。
元々1-0のリードであればセーフティーリードではないため、気持ちが緩む事も少なく、終始高い集中力で試合を進める事が出来ると言われますが、同じ1点差リードでも2-1と1-0では全く違うシチュエーションが生まれるわけですね。
では逆に1点差に詰め寄ったチーム側からすればどうでしょうか?「あと1点いける!」とモチベーションがどんどん上がっていきプレー内容はよりアグレッシブに、ハードワークも厭わないいわゆるインテンシティーの高いプレー振りがより目立ってきます。この時点でプレー内容的には追いかけるチームの方が優位に立つわけです。
その状態で2-2になってしまったら、もはや追いついたチーム側はイケイケ。追いつかれたチーム側はオロオロ。
スコア的に見れば2-2の同点なので互角のハズですが、この後どうなるかはもうお分かりですね?
2-0リードがあれよあれよという間に2-3の逆転劇につながってしまうという幕切れで試合終了。
この悪夢のようなシナリオはサッカー指導者やテレビの解説者などから「戒め」として多く語られるんですね。
彼らは決まってこう言います「2-0スコアのリードが一番危険」と。
スポンサーリンク2-0は危険なスコアの元ネタ?
この「2-0は危険なスコア」という有名な格言についてその元ネタはチェコの元サッカー選手・指導者のヨゼフ・チョプラー(Josef Csaplár)と言われています。
正確に言うと元ネタというよりかは広めた人物と言った方が適切ですが、ハーフタイムにおける2-0は危険なスコアで、負ける可能性が大いにあるという格言はチェコでは“チョプラーの罠(Csaplár’s trap)”という名称で知られているとか。
テレビの解説者としても活動していたヨゼフ・チョプラーが解説をする際によく口にしていたために広まったとの事。
他にもセルビアのサッカー指導者であるミラン・ジヴァディノヴィッチ(Milan Živadinović)もこの格言を戒めのように多用していたようです。
2016年シーズンのイングランド プレミア・リーグでの試合ボーンマス vs リヴァプールは、
2-0のスコアでリードしたリヴァプールがハーフタイムを折り返しますが、最終的にはひっくり返されて3-4で敗れた試合。逆転ゴールはアディショナルタイム3分に決まっていますので劇的。
この試合を受けて元イングランド代表のゲーリー・リネカーは以下のようなツイートをしていますね。
When did 2-0 up become a dangerous score? Hear it so often now. Would like to know percentage of games lost from there? Suspect not high.
— Gary Lineker (@GaryLineker) December 4, 2016
「2-0は危険なスコアという言葉は最近よく聞くけれども、実際にどれ程負け試合になっているのかパーセンテージを知りたいね。お恐らく高くないハズだ。」
このツイートに返答したのが後述のデータ分析会社のオプタ(Opta)社。※その回答は後ほど。
W杯 日本代表 vs ベルギー代表戦
以下の動画は日本時間の7月2日27:00にキックオフしたFIFA サッカーワールドカップ ロシア大会2018 ラウンド16 日本代表 vs ベルギー代表のハイライト動画。スコアはご存知の通り2-3でベルギー代表が勝利しています。※表示がブロックされますのでYouTubeで見るでご視聴ください。
この日本代表 vs ベルギー代表の一戦では圧倒的に格下と思われていた日本が2ゴールも先制するという展開でしたが、本来のベルギー代表の強みである高さであったり、カウンターにおける速さであったりというストロングポイントを存分に生かした3ゴールによって鮮やかな逆転劇が生まれたわけです。
特に格下チームが予期せず2-0リードしてしまったために起きるべくして起きた悲劇とも言えるかもしれません。
実際には2-0リードが一番危険な点差と言われるのは「2-0をリードして前半を終え、ハーフタイムを挟んで後半戦に3点を取られて逆転されるケース」に多く言われるので今回の日本代表のケースは微妙に当てはまりません。
ただし、後半の3分に原口が、そして7分に乾がそれぞれゴールを決めたことを考えると十分に逆転の時間が残された上での2-0リードだったわけですね。
というわけで、これが2-0リードの怖さかと改めて思い知らされるような試合内容でしたが、それではデータに基づいて分析・検証してみるとどうなるのでしょうか?
データ分析してみると?
以下のデータはスポーツ関連の分析を専門に手掛けることで有名なオプタ(Opta)社の資料からです。
イングランドのプレミア・リーグにおける1992年から2017年までのデータを見てみると2-0リードとなった試合は全2766試合。
そのうち2481試合はリードしたチームの勝利で終わり、
引き分けは212試合、
逆転負けは僅か73試合に留まっています。
つまり2-0リードでは、
勝利する割合は89.7%
引き分けは7.4%
逆転負けは2.6%
となっており、2-0リードでは9割近い勝率となっていますね。
うーん。
となると「2-0は最も危険なスコア」というのはただの迷信の類のようですね。
まあ10回に1回は勝てないということを考えると「そんな圧倒的有利な状況をみすみす逃してはいけない」という教訓じみたものは感じてしまいますね。
スポンサーリンク1-0では?3-0では?
1-0リード
では比較の為、1-0リードの場合についてはどうでしょうか?
1-0リードとなった試合は全5721試合。
リードしたチームの勝利は2987試合、
引き分けは1747試合、
逆転負けは987試合となっています。
つまり1-0リードでは、
勝利する割合は52.2%
引き分けは30.5%
逆転負けは17.3%
2-0リードと1-0リードでは段違いだということが分かりますよね。
勝率はほぼ5割に落ち込んでしまっています。
3-0リード
では3-0リードについても同様に比較してみましょう。
3-0リードとなった試合は全1119試合。
リードしたチームの勝利は1099試合、
引き分けは16試合、
逆転負けは4試合となっています。
つまり3-0リードでは、
勝利する割合は98.2%
引き分けは1.4%
逆転負けは0.4%(より正確には0.36%)
3-0リードから逆転した4試合
非常にレアな3-0のスコアからの逆転について時系列順に列挙してみると、
・1997年11月 リーズ・ユナイテッド vs ダービー・カウンティ
4-3のスコアでリーズUの逆転。
・1998年9月 ウェストハム vs ウィンブルドンFC
3-4のスコアでウィンブルドンFCの逆転。
スポンサーリンク・2001年9月 トットナム vs マンチェスター・ユナイテッド
3-5のスコアでマンチェスターUの逆転。
・2003年9月 ウルヴス vs レスター・シティ
4-3のスコアでウルヴスの逆転。
4-0リードからは?
最後に4-0リードのケースについても見てみると、
引き分けになった試合がたったの1試合だけ記録されています。
4-0リードを許した場合はほぼ100%負け試合となるのですが、しかもそれをアーセナル相手にやってのけたのがこの試合。
後半5分にアーセナルのアブー・ディアビが退場となった影響も大きく響いたにせよ、プレミアリーグ史に残る一戦ですね。
・2011年2月 ニューカッスル vs アーセナル
スコアは4-4の引き分けに終わっています。