ヒューマニエンス 思春期とは 思春期の終わりは30歳まで?そのサインはミエリン化
22年6月1日放送のNHK「ヒューマニエンスクエスト」では思春期を特集。という事で思春期の怖いもの知らずの無鉄砲さ、思春期の終わりはミエリン化、人類の繁栄には思春期が関わっていた?といった放送内容をまとめてご紹介。
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思春期の怖いもの知らず
理由も無くイライラしたり、あえて危ない事をやりがちだったりという思春期あるあるは「人類にとって大きな意味がある」と語るのは京都大学の人類学者・高田明教授。
南アフリカで人類誕生直後に似た暮らしを今でも続けているという狩猟採集民サンの研究を通して高田先生が注目したのは、
「若者だけで狩りに行くサンの風習」で思春期にあたる10代後半になると同年代の青年たちがグループで狩りに出かける事が増えるのだとか。
その狩りの特徴は「それまで行ったことが無い新しい狩場を積極的に開拓」するという点。
成熟した大人は獲物がとれる実績がある場所で安定した狩りを行いがちなのに対して、思春期の若者は獲物がとれるかどうかも分からない未開拓の血を目指す傾向にあるそう。
当然狩りが空振りに終わって手ぶらで帰って来る事も多い反面、時として獲物をゲットして新たな狩場を発見する事も。
しかしながら未開拓の地は道に迷ったり、危険な場所だったりと命の危険が伴うのも事実。
ということはつまりそこに獲物をとるという実益以外にも何らかの”面白み”や”冒険心”も見出しているはずというのが高田先生の考え。
この怖いもの知らずの無鉄砲メンタリティを生む源になっているのが性ホルモンの影響。
卵巣や精巣から放出された性ホルモンは巡り巡って脳にも届き、それが思春期の心に大きな影響をもたらすと語るのは総合研究大学院大学学長で進化人類学者・長谷川眞理子先生。
長谷川先生によるとこれは要するに「モテたいから」というのが根底にあるとの事。
パートナーを見つけるという生物のDNAに刻まれた本能的な行動では、他のライバルたちに対して抜きん出る必要があるわけで、激しい競争に勝つためにはリスク覚悟で飛び込む勇気が必要になって来るというわけですね。
その為にはブレーキばかり踏んでいてはダメで、時としてグッとアクセルを踏み込む必要があると長谷川先生。
この性ホルモンが届けられるのは脳の最も内側にある側坐核(欲求を高めて報酬が得たくなる性質)と偏桃体(恐怖・怒り・悲しみなどの振れ幅を大きくさせる性質)という箇所。
これを見ると10~17歳のタイミングで一気に男性ホルモンが急激に増えている事が分かりますが、
これは10歳までは”脳の成長”を優先させて、ある程度脳が成長したら、そこから遅れて体を成長させるという2段階の成長プロセスがあるからと長谷川先生。
女性の周期に応じて上下するのが特徴ですが、
やはりこちらも12歳ぐらいを境に一気に分泌量が増えているのが分かりますね。
思春期の終わりは?
一般的に「思春期の終わりの時期=生理学的には18歳ぐらいまで」といわれていたのに対して東京大学の小池進介准教授は脳画像の解析を踏まえて考えると「思春期は30歳まで続く」と指摘。
脳には無数の神経細胞が張り巡らされており、私たちの判断や思考は神経細胞による情報伝達の賜物。
この情報伝達を行っているのが神経線維。
神経線維を伝って巻きつくように脂肪がうごめいているのは「ミエリン化」と呼ばれていて、神経細胞が信号を送るスピードを速めるターボ状態。
スピードアップすればそれだけ能力が上がるわけですが、このミエリン化が起こる箇所は主に脳の中間部分(ピンク色の部分)に集中。
その内側には先ほど登場した側坐核と偏桃体。
外側には理性的な判断・計画性を司る大脳皮質。
つまりミエリン化される箇所というのはアクセルとブレーキを繋ぐ箇所という意味になりますね。
側坐核と偏桃体がどんどんアクセルを踏もうとするのに対して、大脳皮質のブレーキが上手くそれをコントロール。
ミエリン化が進むとこのバランスが上手く整って来るのでムチャな行動が減り、これが思春期の終わりを意味するというわけですね。
歳をとるにつれて次第に色が変わっていき、どんどんミエリン化が進んでムチャしない落ち着いた脳になっているのが分かりますね。
そしてコチラがサンプルとして撮影された30歳の番組スタッフの脳画像。
紫の部分も増えてかなりミエリン化が進んでいるのが分かりますが、それでもチョコチョコと水色の思春期脳が残っているのも確認。
つまり30歳時点ではまだ思春期が抜き切っていないという意味。
一方でミエリン化にはデメリットも存在しているそうで、それは脳のルーティンワークが固定化されてしまって柔軟な発想が出来にくくなるというもの。
ルーティンにハメ込むことでスピーディーに物事を解決できる一方で、新しい刺激が入り込む余地がどんどん減ってしまう事に。
最後に思春期チェックをする実験を実施。
キーボードのキーを押して風船を膨らませて、ここでもう十分膨らんだと思ったタイミングで確定キーを押してポイントを獲得して行くというゲーム感覚の実験。
大きく膨らませるほど高得点が一度に得られる一方で、いざ風船が割れると無得点。
しかも風船が割れるタイミングは常にランダムなので「どの辺まで攻めるのか?どの辺で妥協するのか?」が確かめられるという趣向。
現在54歳のMC織田裕二が挑戦してみると「この位にしとくか。大人だから。」とキーを押すスピードも非常に慎重。
一方で18歳の高校生が同じ実験を行ってみるとキーを押すスピードも速ければ、かなり風船が膨らんでもガンガンプッシュでハイリスクハイリターン傾向。
これがミエリン化が進んだ大人脳と、まだミエリン化が途中の思春期脳の違い。
思春期と人類の繁栄
およそ5万年前、私たちの祖先がアフリカを出発点にして世界中に広がって行ったいわゆるグレートジャーニー。
その一部が中国大陸から日本の琉球列島に到達して日本人の源流に。
当時は氷河期で海面も低かったので大陸と台湾は陸続きでしたが、琉球列島の一つである与那国島と台湾の距離は直線にして100kmという距離感。
そして海の存在がその二つを隔てており、そこに流れるのは世界屈指の流れの強さを誇る海流・黒潮。
潮の流れがあるので自然任せで漂流するだけでは絶対に到達しないそうで、そんな障壁をもろともせずにこれに挑んだ冒険家魂溢れる人間が過去にいたので現在の私たちがあるというわけですが、
東京大学総合研究博物館の海部陽介教授は「台湾から見ると与那国島は太陽が昇る所にあるので特別な島と感じた可能性がある」という意見。
当時の技術で本当に海を渡れるのか2016年に再現実験を開始した海部先生でしたが結果は、
ほぼ不眠不休で5人がかりで40時間以上漕ぎ続ける事で渡り切る事は可能と実証。
それはもしかしたら若さゆえの思春期のおかげだったのかも?と海部先生。
以上、ヒューマニエンスクエストから思春期についてでした。