人と別れる時に手を振るのはなぜ?アメリカではNG?NHK「チコちゃんに叱られる!」より
NHKで放送された「チコちゃんに叱られる!」について番組の作り方や演出について色々とご紹介したのですが、フォーマット的におもしろいという点に加えて、基本的に雑学を扱う番組ということなので、そちらにも触れておく事にします。
文化の違いなども登場するため掘り下げがいのあるトピックになっていますね。
一応、番組内容に関して簡単な説明を、
スポンサーリンク「人と別れるとき、なぜ手を振るの?」。生活の中で本当は気にして当然なのに、なぜか考えたことすらない疑問、実はいっぱいあるんです。そんなユニークな雑学クイズを5歳の小生意気な女の子、チコちゃんが次々と繰り出します。そして答えられなければ「ボーっと生きてんじゃねぇよ!」とチコちゃんに叱られるんです。翌日にはすぐ人に言いたくなるような、驚いて、感心して、くすっと笑える身近な情報が満載の新番組です。
【ゲスト】岡村隆史,田中美佐子,高橋みなみ,茂木健一郎,【アナウンサー】塚原愛,【語り】森田美由紀
人と別れる時に手を振るのはなぜ?
まずは、番組紹介でも出てきていましたが、人と別れる時に手を振る理由についてです。
この疑問に対する岡村隆史さんの答えは「生まれたときからの名残りじゃないですか?」というよく分からない、フワフワしたもの。赤ちゃんが手を振っているように見えるから連想したんでしょうか?
ご覧の通り叱られてしまいました。
この正解発表に出演者は一斉にザワつき出し「なんか急に何ちゅう答え」というリアクション。
袖振り
日本の歴史、考古学を研究している奈良大学文学部教授の上野誠氏によると、日本人の手を振るジェスチャーが確認できる最古の資料は万葉集にあり、「袖振」という言葉で表現されていたとのコト。
万葉集の中で愛おしい相手と別れる時は必ず袖を振って分かれるという表現が出てくるそうで、古来日本では服の袖に霊魂、魂が宿ると信じられてきたようです。
相手を思って手を振る行為を見せる事で相手の魂もまた自分のところに来てくれるのではないかという願いを込めるという意味があるそうです。
スポンサーリンクちなみに、鹿児島県奄美大島には「平瀬マンカイ」という豊作祈願の儀式が残っており、これは手を振って魂を招く行為として信じられていた名残だそうです。
手を振る事で稲の魂=稲魂(にゃだま)を呼び寄せるという豊作祈願のお祈りですね。
手を振る事で相手に対して「肉体は別れてしまっても魂は一緒ですよ」というメッセージを送る事が出来るという風に考えられていたんですね。
ファンの魂を吸い取る
ナレーション「日本ではアイドルが引退コンサートで無邪気に手を振っていますが、実はこれ、ファンの皆様からファンクラブの会費やCD代だけではなく魂をも吸い取っているのです。」ひどい言われようです。
こんなナレーションでAKB48時代をイジられる始末。
これには出演者の高橋みなみさんも「言い方ヤバイわ。吸い取ってない。そんな言い方良くない。」というリアクション。
最後に「チコちゃん。よく知ってましたね。」と上野誠教授に褒められたチコちゃんは、
ご満悦の様子。
これには岡村隆史さん「腹立つわ~」と小さくつぶやいてます。
高橋みなみさんは「ガタ下がり」という言葉を使っていますが、聞き慣れない表現だったので「だだ下がり」と「ガタ落ち(がた落ち)」を組み合わせた言葉なのかなと思います。
ガタ落ちは「ガタっと」急に目立って落ちていく、下がること。または段違いに劣ることを言うそうです。今回の場合は前者の意味をとることで「下がる」という意味が含まれていますので「ガタ下がり」という言葉は間違いでもないような気がしますね。
ちなみに、「だだ下がり」の「だだ」は「だだっ広い(ぴろい)」、「だだ漏れ」にあるように「非常に、とても、驚くほど」などの強調の意味があるそうです。方言的な表現なのかなとも思いますが「だだっ広い」に関しては共通語として通じるようですね。
スポンサーリンクまた、チコちゃんの特徴として基本的に「小生意気」で、手を振る田中美佐子さんに対して失礼なこんな発言もありました。
英語圏では手を振らない?
茂木さんは疑問として「逆に言うと世界の中で日本人しか(手を振る行為を)やってないってこと?」
これに対する塚原愛アナの補足情報ですが、英語圏では招き猫のように顔の横に手を持ってきてグーパーを繰り返すような動きで表現するという説明。
思わず「チャオ的な」と言ってしまった塚原愛アナ。
すぐに「英語圏なのでチャオではありませんが」と訂正しましたが、一斉に出演者から「変な情報入れんといてください」とツッコまれてしまいました。
ちなみにヨーロッパでは手を挙げるだけで振らないで表現するという補足情報でしたね。※後述
アメリカ発の海外ドラマ「ゴシップガール」 シーズン1 第2話の「ワイルド・ブランチ」でデートの別れ際に手を振った登場人物のダンに対して、デート相手のセリーナが嫌われたのではないかとショックを受けてしょんぼりした表情を見せるというシーンが出てきます。
スポンサーリンク一夜明けて、その後に続くシーンではダンの妹のジェニーに対して昨晩の手を振ってしまった自分を後悔するダンの発言が。妹のジェニーはダンを励まします。
字幕版では「新鮮よ」と訳されていますが、ここでは“nice wave”という表現を使っていますね。
ちなみに日本語吹き替え版だと「イイ振り方だったよ」という言葉になっています。
結局その後は「手なんか振った事を謝って、もう一回チャンスをくれって・・・」ともう一度会う決心をするのですが、ここまでのシーンを見てきて「人と別れる時に手を振る」という行為がアメリカ文化においてイケてない行為かが存分に出てきますね。
ただし、アメリカにおいても手を振る行為は結構よく見る光景ではあります。実際にダンは手を振っているので全く意味の分からないジェスチャーというわけでもないですよね。
ただ、デートのお別れのシーンと言うシチュエーションにはそぐわないという事なんでしょうね。
ひょっとすると、ここでの意味としては「もう二度と会う事の無いさよなら」と言った意味合いになりそうですね。本来であれば次のデートの約束でもしてからお別れする所ですが、手を振った事でこんな意味になってしまったという事でしょう。
相手の魂を引き寄せるという意味を持って手を振る日本とは真逆のようなニュアンスですよね。
これ以外にも多くのシチュエーションで手を振るシーンというのはアメリカでも目にしますので一概にNGとも言えないような気もするのですが・・・。
例えばオバマ元大統領だって、
ただ、紹介したこちらの動画では字幕にある通り、任期を終えてワシントンD.C.を離れる際の最後の挨拶のニュアンスが含まれるので「今生の別れ」的な意味合いが含まれているのは間違いないんですけどね。
これ以外にもあらゆる場面で手を振るシーンは出て来るんですよね。
とりあえず結論として、
アメリカでも手を振るのは普通。ただ魂を引き寄せるという意味合いは無さそう。
という事で良さそうです。
続いてヨーロッパ圏についても話を広げてみましょう。
ヨーロッパでは?敬礼が起源?
塚原愛アナは「英語圏」と言っていますが”ciao”と言っていることからイタリアでの例を探してみると、
あれっ?こちらもしっかり手を振っていますよね。うーん。
実際は番組内での説明とは相反して、ヨーロッパ圏(そこから伝わってアメリカにも?)でも手を振るという行為はあるのですが、これは「敬礼」のポーズが起源で18世紀頃が始まりとされています。
ではなぜこの右手をこめかみの辺りに置くポーズが敬礼になったのかと言いますと、それは兵士の被っていた兜に理由があります。
兜の右側(画像では左側)に突起が出ているのが分かるでしょうか?これを手で押し上げることで兜のバイザー(目の周辺を保護する目的で覆う部分)を上げていたんですね。
バイザーを上げて顔を見せて挨拶をする(敵意が無い証を示す)ことから右手をこめかみにやるポーズが敬礼になっていたとされています。ここから派生して手を振るという行為につながっていくわけです。
また、手を振る行為の起源として他に言われているのが「シャトークア・サルート」というものも存在しています。
これはハンカチ(ハンカチーフ)を振るジェスチャーなのですが、賞賛する意味で使われる場合があります。
例えばベートーヴェンの有名な「交響曲第9番」の初演はウィーンで開かれましたが、演奏終了後、この時既に聴力を失っていたベートーヴェンに見えるようにスタンディングオベーションの他にハンカチを振って賛辞を送った聴衆の姿が文献に記録されています。
また、このシャトークア・サルートはお別れのシーンで、別れを惜しんで使われる場合もありますよね。以下の画像のような光景です。
とこんな感じで手を振る行為は海外で必ずしもNGとなるわけではありませんが、その起源が日本とは異なるという点はちょっと面白いですよね。
フラれるとの関連
以上のように手を振るという行為は日本古来の宗教的・信仰的な考えが基礎となっているようですね。出典がかなり古いという事もあって手を振る行為の起源は諸説あるようですが。
袖振に関連した言葉で「魂振(たまふり)」というものがあるのですが、これは空気を震わせることで、徐々に動かなくなって衰えていく魂に神霊を呼び寄せて活力を再度与えるという意味があるそうで、去っていく相手に対して手を振って(袖を振って)霊魂の加護が得られるように願うという意味であるという説明がされる事があります。まあ諸説あると言う事です。
海外では相手の幸運を祈って“good luck and godspeed”という表現を使ったりするそうですが、神の加護を祈るという行為は英語圏でも同じように存在する証ですね。それが「袖を振る」という行為に結びついた日本では現代に伝わっているということでしょう。
袖に関連したものとして「振袖、留め袖」という言葉がありますが、結婚後は振袖を着てはいけないというのは相手の魂を留めておくため、振ってはいけませんよという意味が込められているようです。
または結婚後は他の誰かに想いを伝える必要がなくなり、袖はいらなくなるから留めておくという意味とも。
ちなみに彼氏、彼女に「フラれる」なんていうのも同じ語源です。
【NHK「チコちゃんに叱られる!」に関する全記事はこちらのリンクから。】