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スポーツクライミング・ボルダリングの勝敗を左右するルートセッターの仕事に密着「Get Sports」より


8月20日にテレビ朝日系で放送された「Get Sports」ではスポーツクライミング競技の一種であるボルダリングの陰の立役者である“ルートセッター”に密着。日本に5人と言われる国際ルートセッターの一人である平嶋元のルート作りの哲学について明らかに。

素晴らしい独創的なルートづくりがあって初めてスポーツクライミング・ボルダリングの魅力が存分に発揮されるという、その舞台裏は一体どのようなものなのでしょうか?

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ボルダリング

オリンピック競技にも採用されたスポーツクライミング競技の種目であるボルダリングは、日本人選手が世界を席巻しているスポーツ。

そのボルダリングで選手が挑む課題を設定しているのは“ルートセッター”と呼ばれる陰の職人たちです。

世界女王にも輝いた野口啓代が「セッターがギリギリ登れるか登れないかかな?って難易度を出してくるんで。」と語っている通り、クライマー vs ルートセッターという戦いでもあるんですね。

そんなルートセッターたちの中でも平嶋元(ひらしまげん)はひと際異彩を放つ存在。

平嶋がルートセッターを務めたボルダリング大会の会場の片隅にその姿が。

平嶋「選手が力を出し切れる感じに仕上がっているかな?というのはずっとハラハラしてますかね。」

たった一人で全てのルートを設定しているわけでありませんが、チーフセッターとしてセッターをまとめる役割として大会に携わっているようですね。

ルートセッター

まだ何の突起(ホールド)も付いていない真っ白な壁を見つめて話し合いが進みますが、この大会では平嶋の他に7人のセッターが協力してルートセッティングを行っていきます。

平嶋「ウチらが出来ることっていうのは、選手が本気になれる課題を作れるかどうかだと思うんで。それをみんなで模索しながら作り上げられたら最高かなと。」

ボルダリングでは、高さ5m以下の壁に設置されたホールドを手掛かりに決められたゴールを目指します。そのスタートからゴールまでのルートを“課題”(英語では”problem”)と呼びます。それを考えるのがルートセッターのお仕事。

複数の課題の中でいくつゴールまでたどり着けたか(完登できたか)で勝敗が決まるボルダリングの競技を考えると、ルートセッターの決める難易度が勝負の行方を左右します。

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理想の難易度

ではその難易度はどのように設定されているのでしょうか?

元トップクライマーで現在、テレビの解説として活躍中の伊藤秀和は、

「トップ選手が完登するかしないかラインを見定めて難易度を調整する。その課題の全貌を見せてくれる選手が少人数出てくる。」

全員が登れてしまう課題でもダメだし、かと言って誰も登れないような課題でもダメ。当然ながらそのような難易度に設定しまうと順位が決まらないので競技として成立しませんよね。

出場選手のレベルを見極めたうえで、勝者と敗者のラインを絶妙に設定するところにルートセッターの腕の見せ所があるんですね。

国内のスポーツクライミング協会公認のセッターの数は約180名。その中で平嶋は日本に5人しかいない国際ルートセッターの資格を持つ日本屈指のセッターの一人。

課題の設定法

平嶋が取り組んでいるのが女子決勝の最終課題。壁の中で一番傾斜のキツイ125度の壁を使います。

平嶋「基本、どう作ってもパワー系の課題にはなりやすいと思うんですよ。重力をまともに受けてしまうので。そこをどう幅を持たせるか。そこはセッターの技量を高めていくしかないなっていう。」

一般的に傾斜がキツイ(強傾斜)課題の場合は全身の筋力がモノを言うパワー系課題となりますが、となるとパワーで無理やりねじ伏せるような、捉え方によっては“単調でつまらない課題”になりがちな所を、クライマーたちにいかに複雑な動きを要求するのかがルートセッターの腕の見せ所となります。

傾斜を確認した後に、平嶋が手にしたのは大きな長い楕円形の通称“サーフボード”と呼ばれる大きなホールドとさらに大きな丸いホールド。

この二つを課題に選んだ理由について平嶋はこう語ります。

「このホールドが壁のどこに付いていたら一番かっこいいだろうか?っていうのを結構考えてたり。笑。この青い長い大きいホールドと白い丸。なんかこう上手く組み合わすことで、パっと見た瞬間に登りたいなと思えるような課題につなげないといけないので。だからすごい見た目っていうのは気にしますね。」

見た目がかっこよくて、そこに壁があると登りたくなるようなクライマーの心をかきたてるような課題。そんな課題を作り続けているのが平嶋です。

近所にクライミングジムが出来たからという理由で23歳の時にクライミングを始めたという平嶋。徐々にクライミングにのめり込むうちにある出会いがあったそう。

平嶋「ルートセッターの岡野さんという方がいらっしゃるんですけど、その方に『ちょっと東京に来てみないか?』と誘っていただいて。」

日本人ルートセッターの先駆者として知られる岡野寛さんから薫陶を受けた平嶋ですが、

「その方の後ろ姿を見て感じて、今でも大事にしているのは『登ってる選手がかっこよくあって欲しい』そこはずっと持ち続けてますね。」

35歳の時に国際ルートセッターになった平嶋。そんな彼が課題を作り続けるうちにセッター冥利に尽きる瞬間というのが、

「ヒーローが生まれる瞬間はもう、何ごとにも代え難い」

自分たちの作ったルートによって選手たちが輝いてヒーローやヒロインたちが生まれる瞬間を追い求めているそう。

その為に自身の中にあるイメージに沿ったルートを作るうえで、ホールド内にドリルで穴をあけてビスで付けるよう加工する場合もしょっちゅう。

この日、現場に立ち会っていた国内A級ルートセッターの濱田健介さんが平嶋の作ろうとしているルートについて「想像が出来ない」と漏らすほど独創的なルート。

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ホールドを付け終わると、自らが課題に取り組んでみて難易度を細かく調整していきます。

一度、設定してみたものの、“我慢しながらずっと耐えながら上がっていく形”にどうしてもなってしまうルートに納得がいかない様子の平嶋。もっと端的に言うと“かっこよくない”という事ですね。

そこで、平嶋は大胆な行動に出ます。それまで縦に付けていたサーフボードを横に付けるという大幅なルート変更。

「うわっ!これはキツイな。笑」

そう笑顔で言う平嶋はいたずらっ子のような表情を浮かべます。

平嶋「決断する瞬間って、捨てることなのかなっていう気持ちで。やっぱりどうしても傾向としては難しく作ってしまう事が多くて、そっから段々優しい方向に緩めていくケースがある。そうすると課題が印象的にどんどん小っちゃくなっていくんですよ。課題がただ出来る方向にだけ流れて行って最初のインスピレーションがどんどん薄れていっちゃって。」

「感覚的なもので違うと思ったら捨てるようにしてますね。」

迷ったらリセットして新たな発想を促す。それが魅力ある課題を作り上げるための重要な考え方のようです。

課題が仕上がると、

「すげぇいいと思いますよ。ドンと動くような。我慢するなら我慢するで中途半端じゃなく。しっかりと仕上げたかったので今の形が一番いいかなとは思っていますね。」

出来上がったのがこちら。スポーツクライミング・ボルダリングの勝敗を左右するルートセッターの仕事に密着「Get Sports」より

大きく横に位置するサーフボードですが、

変更前はこんな感じでした。スポーツクライミング・ボルダリングの勝敗を左右するルートセッターの仕事に密着「Get Sports」より02

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ボルダリングの基本ルール

ボルダリングの順位は、まずゴールまで行けた完登数、続いて定められた中間地点(ゾーン)のホールドまで到達するゾーン獲得数、最後にトライ数に応じて決まっていきます。

当然ながら1回のトライで完登すれば完璧(日本語では1回のトライで完登することを俗に“一撃”と言います)ですが、そうなるとむしろルートセッター的には難易度設定に問題があったと言われかねない事態に。

各課題につき4分の制限時間が設けられていて、時間内であれば何度トライしてもOKとなっています。

課題に挑む選手はトライ前に全ての課題をチェックするオブザベーションという時間が与えられ、このオブザベーション中と自分のトライ以外は課題を見ることは出来ないルール。

他の選手のトライ中には控室のような所で待機するのですが、観客の歓声があがったりというのは耳に入るので「あっ完投したんだな。」なんていうことは伝わるようです。

また、オブザベーション中にはライバル同士であっても「あそこはキツそうだね。」だとか「あそこはこうするんじゃない?」とかなり活発な意見交換したりしますね。

このオブザベーション中が「一番緊張する。」と語る平嶋。

平嶋元のルートセッティング

この日行われていた大会の決勝戦では、優勝争いの行方はあのサーフボードが設置された課題をクリアできるかどうかに絞られました。

その決勝の舞台に挑んでいた野口啓代は平嶋のルートセッティングについてこう語っています。

「クライミングって結構引く動作が多いんですけど、元さんの課題は結構“押す”動作、プッシュする動作が多くて、なんか複雑な要素が沢山あってすごいやっぱり難しいんですよね。」

解説の伊東秀和さんも「下に押すってのはよく出てくるんですけど、下にプッシュをして距離を出していく動きはよく出てくるんですけど、あの傾斜の中で上に押す動きがきたので珍しいですね。特に珍しい動きですね。」

基本的に引く動作を中心に上に上に登っていくのがボルダリングの動きですが、単純になりがちな強い傾斜の中に上に押す動きを取り入れることでルートの独創性が増したものになっているんですね。

結局、この日サーフボードの課題を完登したのは野口啓代ただ一人。円形のホールドに足を立ち込みながらサーフボードを下からプッシュする動きがキーになる動きだったんですね。

その自らが想定した動きを実践して、そして完登して見せた野口の姿に拍手を送る平嶋。

平嶋「そうですね。最後までシンプルに力強いクライミングを追求した形になれたかなという気がします。」

クライミングのために究極まで鍛え上げられた選手たちの、そのポテンシャルを最大に引き出す仕事、それがルートセッター。

ヒーローやヒロインが生まれる舞台を演出する重要な役割なんですね。

平嶋「選手が輝いてくれるシーンを作る上げるために、選手からエネルギーをもらう。もっと進化していかなきゃいけないっていうのを。まあもらってばっかりかな?って正直思ってます。それに応えるために次へ次へ。」

 - スポーツ

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