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「足こぎ」と「手漕ぎ」でヨットのスピードは変わるのか?アメリカスカップのエミレーツ・チーム・ニュージーランドの新方式について。


世界最高峰のヨットレースとして有名なアメリカスカップ(アメリカズカップと“ズ”と濁るのは誤りだそうだ)で「足こぎ」方式を導入したニュージーランドのチームであるエミレーツ・チーム・ニュージーランドのヨットが優勝したというニュースが伝えられました。

ただ、ヨットの知識がないと何が何だかよく分からないニュースということで詳しく調べてみました。

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足こぎと言えば?

まず、足こぎ方式と聞いて真っ先に思いつくのが公園の池なんかで使われるスワンボートですね。足こぎ方式といえばスワンボート

ただし、これは足でペダルを漕ぐことによって接続されたクランクシャフトなどを通して、推進器を回転させて前に進むという構造です。

足で漕ぐという運動を前に進む推進力に変えているわけで、ヨットとは別物です。

あくまでヨットの推進力は風のみです。

手漕ぎとは?

以下の動画はフランスチームのGroupama Team Franceの艇の構造についての解説動画です。

アメリカスカップなどで利用されるヨットではグラインダーと呼ばれるポジションが存在し、各艇で4人が割り当てられます。このグラインダー達がヨットの動力源となるエネルギーをウィンチを巻くことで生み出します。

これは艇(ヨット)の帆を動かしたり、進路を調整するための細かなパーツの動きなど、その全てを油圧によって操作しているため、その動きの素となるわけです。フランスチームによると合計で200mもの油圧システムのパイプラインが艇に通っているようです。

以下の動画で解説されている内容が参考になりますが、艇にはバッテリーが積んであるわけではなく、艇の操作全てにグラインダーが生み出したエネルギーが使われるということが語られています。

古い表現ではありますが、「人間発電所」のような働きですね。そのため常にパワーを供給するために漕ぎ続ける必要があります。

動画を見ていただければ分かりますが、相当ハードなウェイトトレーニングやグラインダーの動きを模したアッパーボディーエルゴメーターなどを使ってトレーニングする様子が映されています。

自然と体はマッチョになっていき、体重が100kg近い乗組員はざらだそうです。

以下のインタビュー内容はGQ JAPANの記事に掲載された、日本艇「ソフトバンク・チーム・ジャパン」の早福総監督のものですね。

「2017年に使用する船には、いろいろと稼働部分があり、そこは油圧を用いて動かします。ただし動力源は積みませんから、人間がグラインダーという油圧発生装置を手で回します。20〜25分のレース中、常に80〜85%の力でヨットの両サイドにあるグラインダーを回しながら、シャトルランのようなダッシュを繰り返す。非常に高いレベルの筋力と持久力が要求されるのです」(早福総監督)

元記事はコチラ:“空飛ぶヨット”がやってくる!ルイ・ヴィトン・アメリカズカップの福岡大会 その2

エミレーツの足こぎ方式とは?

エミレーツ・チーム・ニュージーランドが導入したのは足こぎ方式というのは以下の動画で紹介があります。

動画のタイトルにもあるようにグラインダー(grinder)ではなくサイクラー(cyclor)という名称になっていますね。

さらにはこのポジションに2012年ロンドンオリンピックの競輪種目でニュージーランド代表として銅メダルを獲得したサイモン・ヴァン・ヴェルトホーヴェン(Simon van Velthooven)がリクルートされていることも動画内で紹介されていますね。バリバリのサイクリストからセーラーに転身というわけです。

ニュージーランド人にとってラグビーとヨット競技のアメリカスカップは小さな頃から身近な存在で、誰しもが一度は憧れるみたいですね。

ちなみに彼は日本の競輪も走った事があります。2012年参戦時の登録名はサイモン・バンベルトーヘンだったそうです。

ちなみにもう一人紹介されているジョセフ・サリバン(Joe Sullivan)はボート競技のダブルスカルで2012年ロンドンオリンピックの金メダリストです。もちろんこちらもニュージーランド代表。エミレーツ・チームニュージーランド 足こぎ方式ヨットのサイクラー ジョセフ・サリバン

彼曰く、「ボートを漕ぐローイング動作の70%は脚で生み出される」そうなので足でペダルを漕ぐ方式は彼にぴったりなのだそう。また、ボート選手時代には自転車を漕ぐトレーニングも多く行っていたそうです。

そんなトップアスリートからしてもサイクラーのポジションで限界ギリギリまで力を振り絞ると視界が狭くなったり、聴覚がマヒしてくるなんていう事がインタビューで語られていますね。

動画内でサイクラー達の心拍数が計測されているシーンが出てきますが、エミレーツ・チームニュージーランド 足こぎ方式ヨットのサイクラー達

心拍数が238なんていうとんでもない数字になっているクルーがいますが、まず間違いなく計測のエラーだと思いますので除外してみてみると、最大心拍数に対して80%から90%ぐらいになっているようですね。

前述の早福総監督のコメントと大体一致していますね。※唯一65%の数値になっているグレン・アッシュビー(Glenn Ashby)はスキッパーというポジションで舵取り役であり指揮を担当しています。

相当キツイわけですが、その甲斐もあってか、従来の手漕ぎ方式よりも40%も多くのエネルギーを生み出すことに成功したとイギリスのデイリー・テレグラフの記事で伝えられています(英語ページが開きます)。

また、こちらの記事では今回のアメリカスカップでエミレーツの後塵を拝す形となってしまったオラクル・チーム・アメリカがこの足こぎ方式を導入する可能性についても触れられています。

記事では足こぎ方式と手漕ぎ方式を組み合わせるのではないか?なんていう噂も載っていますね。

ちなみに、日本チームのソフトバンク・チーム・ジャパンも足こぎ方式については細かく観察していたようで、敵陣偵察はきっちり行っていたようですね。

最後に

今回エミレーツ・チーム・ニュージーランドが採用したサイクラーによる足こぎ方式によるペダリングパワーにこれまで脈々と使われ続けていたグラインダーによる手漕ぎ方式が取って代わる事になるのかどうかは今後の各チームの動向を見てみないと分からない事です。

この画期的と言われる動力源が優勝の一つの要因だとしても、その他の要素やチームマネジメントによる差が大きな差となった可能性もあるわけです。

実際にはフォイルと呼ばれる水中翼のデザインが勝利のカギを握るとさえ言われていたようで、フランスチームでは200を越えるデザイン案があって5ヶ月間のテストを行って最終的な決定を出したと伝えられています。

既に足こぎ方式について検討したオラクル・チーム・アメリカではあまり良い感触は得られなかったということで採用を見送ったという情報もありますし、前述のように一部採用する方式も考えられるようですので、「手漕ぎ vs 足こぎ」の論争についてはまだまだ結論が出るのは先のようですね。

 

 

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