007 カジノ・ロワイヤルに登場する横転シーンに関する記事は誤訳だらけ?原文のさらに原文の謎に迫る
世界一有名なスパイと言えばジェームズ・ボンド。そんな彼が活躍する映画「007」シリーズは派手なアクションシーンが見所の一つですよね。2006年に公開された「007 カジノ・ロワイヤル」ではボンドカーが豪快に横転するクラッシュシーンが非常に印象的。
このシーンのカースタントに関しての裏側について書かれた記事が公開されていますが、誤訳と思われるような箇所が散見されたため、原文の記事と照らし合わせながら詳細について調べてみました。
スポンサーリンク問題の記事
【Esquire(エスクァイア)版】 ギネス認定の横転シーン詳解 ー『007 カジノ・ロワイヤル』のボンドカーは凄かった! 2ページ目
【Yahooニュース版】ギネス認定の横転シーン詳解 ー『007 カジノ・ロワイヤル』のボンドカーは凄かった!
Esquire(エスクァイア)のオンライン記事をYahooニュースにも配信している形をとっているため上記2つの記事はほぼ同じ内容となっています(表現が多少違う部分もあります)。
気になったのは劇中のボンドカーとして有名なアストンマーティン 「DBS」が激しく横転するシーンのスタントについての記述。スタントチームの苦労について語られている部分です。
本文の2行目にはオンラインゲーム「ラリークロス(レースとラリーを組み合わせた自動車競技)」のクラッシュシーンを参考にしたという記述が出てきます。
オンラインゲーム?一体何のことでしょうか?スタントチームがオンラインゲームを使ってシミュレーションでも行ったのでしょうか?それを元に傾斜を20cmに設定した?うーん。よく意味が分かりませんね。
一応ラリークロスのゲームとしては「DiRT 4」というタイトルがあるようですが。
原文の記事では?
こんな時は原文の記事を調べてみるしかありませんね。Yahooニュース版には原文へのリンクが省略されていますが、Esquire(エスクァイア)版では掲載されていますのでそちらをチェックしてみることにしましょう。
How James Bond’s Aston Martin Accidentally Set A World Record Filming ‘Casino Royale’(英語ページ)
Esquireから参照する場合は記事下の赤枠で囲った部分がリンクとなっています。
スポンサーリンク“based on some rally cross crash they’d seen on the internet.”という記述が該当の個所です。簡単に訳すと「ネットで見たラリークロスのクラッシュを元に」となりますね。
オンラインゲームなんてどこにも出てきません。ただし、原文を読んでいくとまたしてもよく分からない部分が。
“the Aston proved a lot more stable than those crusty 5-series”という記述が続いていますが、これは一体?訳としては「アストンは堅い5シリーズよりも安定性が高いことが証明された」となります。5シリーズとは何でしょうか?さらに謎が深まります。
原文のさらに原文「Evo」
元記事の原文を読んでも何だか腑に落ちない・・・。ではさらにその元記事である自動車ニュースサイト「Evo」の記事を読んでみるしかありません。
該当の記事はコチラのようですね。
Aston Martin DBS: How James Bond crashed his Aston – Evo(英語ページ)
2007年3月1日が更新日になっていますのでかなり古い記事を引っ張ってきていることが分かります。まあ映画の公開日を考えると納得ではあります。
Evoでは非常に長い文章となっていますが、該当箇所は中盤辺り。以下のような記述が見られます。
「アストンに形や重量が似せられているE34 BMW 5シリーズを参考に傾斜台を20cmに設定した」
「スタントコーディネーターのゲイリー・パウエルがラリークロスのドラマチックなクラッシュをインターネット上で見て、アストンでも同じような何回転もするような劇的なシーンを狙った」
こんな感じの訳になる文章がありますね。謎だった「5シリーズ」とはリハーサルで使用されたBMWの車種だったことが分かります。
リハーサルでは時速65マイル(約104km)でBMWを突っ込ませた時に3~4回転して思惑通りのシーンが再現できたようですね。注:他のサイトの記事では「時速80マイル(約128km)で25cmの台に突っ込ませて5回転させた」という記述も見られたりします。
ただし、いよいよアストンを使ったテストを行った際には5シリーズよりもより安定感があるため上手く回転しないことが発覚。スタントチームはさらなる改善を迫られることになったようです。
そこからは台の高さを45cmに上げたり、さらにスピードを時速70マイル(約112km)に上げたりと調整を行っています。それでも頑丈なシャーシと低重心の為にこれも失敗。
最終的には車体の底に取り付けたピストン装置で横転させることになったようですね。とここまでのいきさつは翻訳記事の通りですね。
スポンサーリンクピストン装置とは?
細かい指摘をすると、Esquireの翻訳記事では『「DBS」に乗ったスタントマンが急ハンドルを左に切ります。と、その同時に車体底の金属ピストン装置が作動して』という説明があります。
これではあたかもハンドル操作と連動してピストンが動くようなイメージを持たれるかもしれませんが、Evoの元記事では「トリガーが引かれるタイミングはスタントマンのアダム・カーリーに委ねられており」という記述がありますのでハンドル操作と連動してピストンが作動するわけではありません。
考えてみればハンドル操作に連動して車体が勝手に跳ね上がる装置は危なすぎて現実的ではないでしょうね。
イメージとしてはこんな感じでしょうか。
世界記録?
翻訳記事では「世界記録」にも言及されていますが、「これは自動車の横転におけるギネス世界記録に認定されているほどですから」という表現が。
元記事では「ピストン装置を使ったギネス世界記録でTop Gear(自動車番組)でマークされた記録を上回って7回転を達成」というような表現になっています。
ちなみにTop Gearではこんな感じ。91年製のフォード・シエラが使用されています。記録は6回転。
映像を見ていただければ分かりますが、横転させるためのピストン装置は、ピストンがそのまま外に射出されるようになっており、ボンドカーDBSで使われたものとは異なるシステムとなっていますね。
スポンサーリンクでは実際のスタントシーンを撮影したメイキング映像を見てみましょう。
速度は最終的に時速75マイル(約120km)まで達していたようです。またクラッシュ後に車のライトが点いたままというのも狙い通りだったようですね。
そしてこれが「007 カジノ・ロワイヤル」劇中のシーン。
見事な7回転を決めています。
幻の世界記録?
映像は1990年に撮影されたものです。
使用された車はルノー・フエゴ。ご本人の回想では時速80~85マイル(128~136km)ほどのスピードだったようです。公式なものとして認定されていないようですが映像ではしっかりと8と1/4回転を記録しています。