土砂崩れに予兆はある?タブー視される本物の土砂崩れ実験から分かるその原因と対策は?
毎年のように「記録的な大雨」「○○年に一度の豪雨」「ゲリラ豪雨」といった見出しと共に土砂崩れの被害について報じるニュースが絶えない昨今。大きな被害を出すこともある土砂崩れが発生する前に起きるというある予兆について本当の所はどうなのか?という点に着目してそのメカニズム、原因と対策についてご紹介します。
というわけで19年1月15日放送のNHK「すごいよ出川さん!本物の火事&土砂崩れ!衝撃映像満載のメガ実験バラエティー」から実際の土砂崩れを再現するという大がかりな実験から抜粋してまとめておきます。
スポンサーリンク土砂崩れ実験はタブー
まずは土砂崩れの“予兆”について専門家の意見を聞いてみると、
「音がしたり、水が急に出て来たり、ニオイがしたりとかっていうような事があるとは言われてますが・・・実は科学的に必ずしもどんな現象が予兆なのかっていうのは未だによく分かっていないと。」
そう語るのは地すべり学会前会長の落合博貴さん。日本を代表する土砂崩れ研究のスペシャリストです。
実は土砂崩れに対する科学的研究は大きく立ち遅れているというのが現状。
ここまで毎年被害が報告されているのにこれは一体なぜなんでしょうか?
それは1971年に起こった、
「ローム斜面崩壊実験事故」
が暗い影を落としているから。
コチラがYouTube動画。
舞台は神奈川県生田緑地。
土砂崩れの前兆現象を調べるという目的で大規模な土砂崩れ再現実験が行われることになり、斜面に人工的に降雨。
実験開始から2日が経った頃、斜面に突如として爆発的な崩壊が発生。
その結果・・・
崩壊の規模が予想を遥かに超えた事が災いして、下流に待機していた研究者やマスコミ関係者を大量の土砂が直撃し、15人の尊い命が失われるという最悪の結果を招いてしまう事に。
「(土砂崩れは)あそこの稜線からですよね。ちょっと想像もつかないですよね。ここから見た限りでは・・・」
事故後に建立された生田緑地 慰霊碑で手を合わせてそう語る落合博貴さん。
事故以来、土砂崩れの実地実験はタブーとされてきました。
それでも、増え続ける土砂災害の原因と対策を知るためにはその研究データは欠かせません。
ということでこの度、千葉県富津市の全面協力の元で再現実験に挑むことに。
富津市長 高橋恭市「山間部を持っている地域ですので、大雨の時の土砂災害の不安っていうのを常日頃から持っているわけであります。」
役所・警察・消防・土木や工事・水道など、あらゆる分野の関係者が一堂に会して、傾斜40度の斜面を使った実験を計画。
40トンのタンクから消防車のポンプで水を吸い上げて大雨を降らせて土砂崩れを人為的に引き起こすというのが大まかな流れ。
本番の6日前には斜面のあちこちに特殊な水圧計を埋め込みます。
他にも地表の動きを捉える伸縮計、傾きを測る傾斜計もセッティング。
さらに斜面の僅かな異変も捉えられるようにとカメラ20台(おそらくアクションカメラの代表機種GoPro)を準備。
本番で降らせる雨量は1時間あたり約100mm相当。※24時間雨量では無いのでご注意
これは大規模な土砂災害や河川の氾濫に警戒が必要なレベルの大雨で、気象庁が「記録的短時間大雨情報」を発表しうる段階。
※「記録的短時間大雨情報」過去のデータなどを基に地域によってレベルが異なりますが、1時間雨量が80mm~120mm辺りになるのが目安。
大雨による土砂災害の警戒区域については気象庁の大雨警報(土砂災害)の危険度分布をご確認ください。
スポンサーリンク土砂崩れ研究の実情
本番を前にして、
落合博貴「地面の下の情報っていうのがやっぱり圧倒的に少ないんですよ。自分で斜面が実際に崩れる所を見た事がある研究者が何人いるか?この世に。まず自分の目で見る事。こういう現象なんだっていう事を文字だけでは無くて広めるっていう事はずいぶん違うと思いますけどね。」
NHKの番組が関係してこのような実験が行われる事になったという経緯については、
落合博貴「ちょっとNHKさんに対する印象が少し変わりましたけどね。ここまでやるのか!っていうね。良い方ですね。プラスですね。(これまでの印象が)悪かったわけではないですけど。」
少し照れ臭そうに笑顔を作る落合博貴さんですが、タブー視された実地実験に対して研究者として歯がゆい思いを長年抱えてらっしゃったように思えますし、貴重なデータが観測できるチャンスに巡り合ったのは幸運といった心境でしょうね。
実験スタート
そして迎えてた実験当日。
今後の防災や救助に少しでも役立てたいという事で多くの関係者が現地入り。
富津市長、消防隊、機動隊、千葉県警など多くの公的機関が参加。
富津警察署の大和田正敏署長は「こういう崩れる瞬間っていうのは見た事がありませんから、勉強の為に来ました。」とコメント。
そして土砂崩れの予兆現象として言われる事がある「ニオイ」を検知できるかもしれないということで数匹の犬も実験現場に。
あくまで離れた場所から犬たちも実験を見守ります。
散水から30分
散水から30分が経った頃に早速異変が起こります。
斜面のふもとの部分を中心に湧き水が確認できる状況となりますが、これは土砂崩れの予兆とまことしやかに言われている現象。
散水から1時間~
湧き水が確認されてからさらに30分が経過してスタートから1時間。
この時点では特に大きな変化は見られず。
さらにスタートから2時間が経過しても変化なし。
「いつ土砂崩れが起こるのか?」という緊張感が薄れて、実験現場には緩い空気が流れ始めます。
この時点で雨を大幅増加させて、
1時間当たり180mmというゲリラ豪雨レベルの雨量にアップさせて変化を見る事に。
すると10分後にセンサーに異変を感知します。
斜面全体が動き始めているという観測データが記録され、時間移動量35ミリの変化。
落合博貴「植生も何もない砂で出来た斜面だと35ミリ動いたらもう崩れてもいいぐらい。」
森林や植物といった環境にも影響されるという事ですね。
映像を早送りで見てみると確実に地面がズレ出しているのが分かるように。
土砂崩れ発生リスクが高まったという事で実験を見守る関係者一同に警告を発します。
スポンサーリンク土砂崩れ発生の瞬間
大雨の際には地面に染み込んだ雨は硬い地層に沿って流れて地表に排出されます。この時の排出口になるのが実験して間もなく観測された湧き水が出るポイント。
しかし、水量がそこからさらに増えると水の層が成長してある部分の地面を押し上げ始めます。
そして斜面全体が動く事で地中での水の流れに変化が起こり、今までは出ていなかった湧き水ポイントが新たに発生。
ここで、さらに1時間雨量240mmという過去最強レベルの雨量にアップ。
ほどなくして斜面のふもとにあった一番最初の確認できた湧き水ポイントから水が出なくなるという現象を確認。
その5秒後・・・
土砂崩れが遂に発生。
根こそぎ崩れた土砂量は推定100トン。
20m以上の距離を一気に滑り落ちるという結果に。
コチラが土砂崩れの瞬間をとらえた動画。
NHK「すごいよ出川さん!本物の火事&土砂崩れ!衝撃映像満載のメガ実験バラエティー」から土砂崩れの実験映像。1時間雨量は100mm~240mm。崩れた土砂量約100トン。滑り落ちた距離は20m超。 pic.twitter.com/f4unOVuvLu
— What an Interesting (@WIW_on_Twi) 2019年5月20日
崩壊の直前に止まった水の流れの原因については、
それまでめまぐるしく変化していた水の流れが何かの理由で目詰まりを起こしたからでは?と推測されます。
こうなると水が行き場を失くした事で強烈な浮力を発生させて土砂崩れを引き起こした可能性がある指摘する専門家の言葉。
後日、録画映像を細かく落合博貴さんにチェックしてもらうと、
「これほど多方面に、色んな方向から映像が撮れた事って無いので期待以上の実験ですよね。」「それこそ『サイエンス誌』『ネイチャー誌』級の論文にもなりうるかもという気が。日本もまだ捨てたもんじゃないよと。」
今回得られた実験データは大学・消防などの多くの研究機関に共有され、防災と救助に役立つ研究が行われる見通しだそう。
スポンサーリンク専門家からのアドバイス
実験結果から専門家からのアドバイスは、
- 土砂崩れの前にセンサーでは多くの予兆を観測出来るものの、外見からはほぼ判断不可能
- 土砂崩れの引き金になるのは気まぐれな水の流れ次第で過去の経験や予兆は何の意味も持たない
- どうしようか迷っている間にも土砂崩れ発生のリスクは常にあると肝に銘じて早めの避難が鉄則
というわけで、日本では禁忌とされてきた土砂崩れのリアルな実験から分かる土砂崩れに関する知識でした。