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パシュートのプッシュ作戦や新作戦のリスク、4人の役割は?NHKクローズアップ現代


22年2月2日放送のNHK「クローズアップ現代+」では日本女子団体パシュートを特集し、新作戦として登場したプッシュ作戦に挑む日本チームを取材。という事で番組内容をまとめてご紹介。

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プッシュ作戦

2018年に開催された平昌オリンピックでは日本女子パシュートチームは見事金メダルを獲得したのは皆さんご存知の通り。

その際には風の抵抗を極限まで減らす「一糸乱れぬ隊列」と「一瞬で先頭交代」をする高い技術が世界一の原動力としてもてはやされたわけですが、そこからパシュートには技術革新が起こり、今世界では先頭交代をせずに後ろの選手が前の選手を押し続けるプッシュ作戦が流行。パシュートのプッシュ作戦

パシュートでは先頭を滑る選手が風圧を一身に受けるため負担が高く、この負担をチーム全体で交代で担当する事で全体的な疲労度を減らしていくというのが先頭交代をする理由ですが、先頭交代時には一瞬でも一列の隊列が崩れてしまうのでタイムロスが生まれるのも事実。

であればロスを生む先頭交代はやめて、ずっと同じ並びのまま滑り続ければいいじゃないかというのがこの新作戦の出発点。

そうなると最前線で滑る選手だけがどんどん消耗して行ってしまうので、それをサポートする為に後ろの選手が手で押して推進力をプラスしてあげる事で前の選手は持ちこたえられるというわけですね。

2018年以降海外チームは積極的にこのプッシュ作戦をチーム戦術として取り入れて好記録を連発する事に。

世界のトレンドに乗り遅れまいと日本チームもこのプッシュ作戦を導入する事になりますが、新しいものを取り入れるとなるとそう簡単には行かないのが難しい所。

では日本チームはどのようにしてこのプッシュ作戦と向き合ったのでしょうか?

プッシュ作戦誕生の瞬間

2020年2月に開催された世界距離別選手権。

アメリカ男子パシュートチームがこれまでの常識を根底から覆す作戦を披露する事に。

レースで見せたのは例のプッシュ作戦。先頭交代の回数はゼロ。

この作戦が功を奏して平昌オリンピックのメダル圏内のタイムをマークしたアメリカチーム。

個人のタイムを比較してみるとアメリカチームの3人のタイムは8チーム中6位と決してエリート揃いの強豪とは言えないチームでしたが意外な好タイムを記録する事となり、これによって世界に大激震が走る事に。パシュートのプッシュ作戦 アメリカチームの発明

日本チームを指導するヨハン・デ・ヴィットコーチは当時を振り返り、

「アメリカは個人ではそれほど高いレベルの選手たちでは無かったのですが、団体パシュートの結果はとても良かったのです。それを見て興味深いと思いました。」

先頭交代を1度行うと約0.2秒のタイムロスが生まれるといわれており、先頭交代がゼロになるプッシュ作戦ではこのタイムロスが省けるので有利。それだと先頭の選手だけが消耗してしまうので後ろから支えてそれを補うというのがプッシュ作戦の2つ目の肝になる所。

このプッシュ作戦は2021年には女子の世界にも広がっていき、2018年の平昌オリンピックから5秒近くもタイムを縮めて躍進を遂げるチームまで現れる事態に。

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プッシュ作戦のリスク

プッシュ作戦によってガラリと様相が変わってしまった団体パシュートを取り巻く環境に対して、日本チームも2021年1月にはプッシュ作戦へのチャレンジを決定。

ヨハンコーチ「私たちも成長しなければなりません。これまでと違う事を試しています。」

そして2021年2月には日本のプッシュ作戦が初めて報道陣にお披露目されることに。

ところがそこで明らかになったのはプッシュ作戦の持つ大きなリスク。

カーブの出口に差し掛かった際に2番目を滑っていた佐藤綾乃選手と最前線を滑る高木菜那選手のブレード同士が引っかかり、あわや転倒という危ない場面。パシュートのプッシュ作戦 転倒リスク

原因は選手間の距離が縮まった事なのは明らかでした。

従来の隊列では選手間の距離は1.4mと広く取られていましたが、手で直接押すとなると当然ながら近づく事になるわけでその距離は僅か0.8m。パシュートのプッシュ作戦 転倒リスク 選手間の距離

距離感の違いを見比べてみるとこの位。パシュートのプッシュ作戦 転倒リスク 選手間距離

高木菜那「今まで以上にくっ付いていかなければいけない。プラスして足を綺麗に合わせないとちょっとズレるだけで前の人の足がぶつかったりしてしまって。」

一方で、接触を恐れて足元にばかり集中してしまうとプッシュする手が疎かに。パシュートのプッシュ作戦 手が離れるリスク

時速50kmというスピードの中で一瞬でも滑りのリズムが乱れると転倒するというリスクも抱えながら超接近戦に挑まなくてはいけないという大きなチャレンジ。

佐藤綾乃「長い時間かけて経験を積んできたものを、大きく変える事に対して個人的には少し抵抗があったというか。本当にこれでいいのか?というのは最初に印象だったのかなと思います。」

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手つなぎ作戦

そこから2021年10月には試行錯誤の結果として新たなスタイルの日本女子チームの姿が。

ポイントは選手の手の位置。パシュートのプッシュ作戦 日本チームの新作戦手つなぎ

前の選手の腰の辺りでしっかりと手を繋いでいる姿がお分かりかと思いますが、

それまでお尻に添えるように置いていた手の位置とはまるで異なる新たな作戦。

このいわば「手つなぎ作戦」では手に気を遣わずに安定してプッシュできるという利点があり、より滑りのリズムの息を合わせるのに集中できるんだとか。

バンクーバーオリンピック銀メダリストの田畑真紀さんによると、手のつなぐことで相手の細かな動きの変化なども読み取れるようになるのではないかとの事。身体的につながることでより一体感が増すというわけですね。

高木菜那「手をつないでいた方が集中して足を合わせられるっていう。難しいけどそっちに集中できるので、より一層足が合って来たりとかもします。」

2021年12月にはアメリカのソルトレークシティーで開催されたワールドカップではさらに作戦を熟成させ、

日本チームは2周目から手つなぎ作戦を実行。

そして3周目には高木菜那選手に先頭交代を行った上で手つなぎ。

より速いタイムを目指して先頭交代を一回だけ行うという、従来の先頭交代と新たな手つなぎ作戦を組み合わせた、いわば「ハイブリッド作戦」とも呼べる作戦でレースデビュー。

残り1周の時点で世界記録を上回るペースでレースを展開した日本チームでしたが、パシュートのプッシュ作戦 日本チームの世界記録ペース

そこで恐れていた事が現実に。

先頭を滑っていた高木菜那選手が転倒してしまいゲームオーバー。パシュートのプッシュ作戦 疲労で転倒リスク

コチラがその実際のレース映像。転倒シーンは3:07付近。

それでも世界記録を上回るペースでレースを展開できた事は大きな収穫。

高木美帆「実戦で積める時間はそこまで多くはないんですけど、その分他に出来る事ってまだあるっていう風に思ってるので。」

ライバルと目されているのはカナダチームとスケート大国オランダチーム。

特にカナダチームは2021年ワールドカップ3戦全勝と波に乗っている優勝候補筆頭。

180cmオーバーの大型選手がメンバー入りする海外勢は大きな体を有効利用する事で風よけの役割を果たせるのでその点では日本チームよりも有利。

日本、オランダに比べてカナダチームは個人個人ではタイム的に劣っていても、パシュートのプッシュ作戦 金メダル候補カナダのタイム

チームを組む事で一気に強豪に変貌しているのがよく分かりますね。

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4人の役割

2021年12月には北京オリンピック前の最後のレースが開催。

それがワールドカップ第4戦となるカルガリー大会。

結果は1位カナダ、2位日本。

ミスなく滑り切ったものの結果は1秒近くの差に。

世界記録ペースだった前回大会に比べると1周ごとのラップタイムが落ちていることが分かります。パシュートのプッシュ作戦 1週ごとのラップタイム

高木美帆「最初の私のラップを作る所でそれが出来なかった場合、盛り返すには相当な力を使わないと出来ない。もっと強い気持ちで最初の2周半を行かないとハイブリッド作戦は成立しないんだなって改めて感じたレース。」

序盤から積極的に攻めて波に乗らない事には金メダルは見えてこないという感想のようですね。

一方でレース中盤から先頭を滑る事になる高木菜那選手は、アメリカで起こった転倒のアクシデントの原因について体力が最後まで持たなかった事によるものだという見解。

世界記録を上回るペースで飛ばした日本チームのツケを最終盤になって高木菜那選手が払わされたというわけですね。

最終盤でも後ろの選手からどんどん前に行くようにプッシュされるのに対して、限界を迎えた足ではそのペースを維持する事が出来ずにバランスを崩して転倒したと。

それを踏まえて「ペース配分」がカギになって来るとの事で、

高木菜那「最初の1周目は前回みたいにほぼフルで行くのではなくて、その力を10%でも後ろに持って行けるようにペース配分も上手く話し合ってやっていけたらいいなと思います。」「あの時転んだからこそオリンピックで良い結果が出たと言えるように準備していきたいなと思ってます。」

そこでカギになって来るのが佐藤綾乃選手。

最後列からスタートして中盤から先頭を行く高木菜那選手の後ろについて2番手で滑走。

高木菜那選手が体力を消耗しないように上手くスピードに乗れるかどうかは後ろからプッシュする自分にかかっていると佐藤綾乃選手。

佐藤綾乃「美帆さんの力をいかに失わないように、前の菜那さんに伝えられるかっていう。先頭を引かないから責任が無いのでは全く無くて、逆を言えばほぼ私にかかっている。」

そして4人目の選手として出場する押切美沙紀選手にも重要な役割が。

北京オリンピックでは2月12日に行われる準々決勝、そして2月15日に行われる準決勝&決勝という3本のレース日程のうち、レースに出場する3人はレースごとに選ぶ事になりますが、

押切美沙紀選手の出番がやって来るのは準決勝。そこで押切美沙紀選手が仕事を果たす事で決勝に向けて1人を温存できるというわけですね。パシュートのプッシュ作戦 4人目押切美沙紀の役割

押切美沙紀「どれだけ決勝に向けてみんなの力を温存できるかっていうのが重要だと思うから、確実に決勝に進めるようにみんなの力を温存するには何がベストなのかを考えていきたい。」

さらに日本チームは本番ギリギリまで作戦は柔軟に変更するとヨハンコーチが語っているように、実際に本番はどうなるのか?は全くの未知。パシュートのプッシュ作戦 4人の役割

ひょっとすると新たな作戦が飛び出すのか?北京オリンピックでの4人の活躍に注目ですね。

以上、北京オリンピックに挑む日本女子パシュートチームについてでした。

 

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