桐生祥秀の9秒台を実現したトレーニング。「低下率」の改善とは?また室伏広治の指導ついて第2弾
日本人初の9秒台、9秒98のタイムを叩き出した桐生祥秀選手。ではその9秒台を実現するきっかけになったと言われる室伏広治流トレーニング法とはどのようなものだったのでしょうか?また、データ分析で見えてきた9秒台実現のためのキーワード「低下率」とは一体どのような意味なのでしょうか?
日本陸上競技連盟、強化・科学委員が明かす日本人で初めて10秒の壁を越えた桐生祥秀選手の進化の謎とそのトレーニング内容についてTBS系のスポーツ番組「S☆1」で紹介されていた内容を元に詳細をご紹介します。
以前にも室伏広治流トレーニング法についてお伝えしていますので今回は第2弾とも言えますね。
スポンサーリンク低下率とは?
桐生祥秀選手の走りについて長年研究してきたという日本陸上競技連盟、強化・科学委員の小林海氏曰く「低下率を小さくする」ことが9秒台のためには重要になってくるとのこと。
通常、100m競走の場合、ほとんどの選手が50mから60m付近で最高速度に達し、その後失速していくと言われています。
その際の最高速度に達した後にどれだけスピードが落ちたかを数値化したものを「低下率」と表現します。
実はこれまでの桐生祥秀選手の課題となっていたのがこの低下率の大きさ。
例えば神奈川県川崎市の等々力陸上競技場で開催された2016年5月8日のセイコーゴールデングランプリ陸上の男子100m決勝。アメリカのジャスティン・ガトリン選手(5レーン)、日本の桐生祥秀選手(4レーン)、山縣亮太選手(6レーン)、サニブラウン・ハキーム選手(3レーン)が争った大会の動画。
スタートの反応時間で既に遅れてしまった桐生祥秀選手ですが、最終的に優勝を飾ったジャスティン・ガトリン選手のタイム10秒02に対して、桐生祥秀選手のタイムは10秒27。0.25秒差をつけられて完敗となってしまいました。
こちらがこのレースでの桐生祥秀選手のスピードの変化について表したグラフです。55m付近でおよそ秒速11.25mと最高速度に達していますがそこから一気に失速。つまり低下率が非常に大きい状態となっているわけですね。
ジャスティン・ガトリン選手のデータを重ねてみると一目瞭然。最高速度自体もおよそ秒速11.50mまで加速出来ている点も大きく違いますが、その後の低下率を小さく抑えられているのがはっきりと分かりますね。
数値で表すと、桐生祥秀選手の低下率は約7.5%に対して、
ジャスティン・ガトリン選手の低下率は約4.6%となっています。
つまり、レース最終盤にどれだけスピードを落とさずに低下率を抑えてゴール出来るかが9秒台への鍵となるわけですね。
スポンサーリンク桐生祥秀の進化
小林海氏が桐生祥秀選手の進化を感じたレースとして例に挙げるのが2017年4月29日に開催された第51回織田幹雄記念国際陸上競技大会 100m A組決勝。以下の動画がその時の映像。
向かい風0.3mが吹く中で10秒04のタイムで走り優勝した桐生祥秀選手ですが、その走りが安定してきたことを表すデータがあるそうで、
まず最高速度が秒速11.42mに到達。そして秒速11mをキープしながらゴール。
低下率は約7.5%だったのが約3.8%にまで大きく改善しています。
向かい風の条件で走っていることを考慮するとスピードの低下率が多くなりがちな条件下だったにも関わらず、低下率を小さく抑えられたことは特筆すべき点です。
このような進化を支える源となっているのが室伏広治氏の指導の下に行われているトレーニング。
スポンサーリンク室伏広治流トレーニング
現役時代から、その独創的なトレーニング内容で知られていたアテネ五輪男子ハンマー投げ金メダリストの室伏広治氏。
以前の記事「桐生祥秀の9秒台への挑戦。室伏広治流のトレーニング指導の内容について。」でも詳しく取り上げていますが、今回は追加で新たなトレーニング内容について紹介されていましたので補足情報として第2弾ですね。
まずは室伏広治氏の定番トレーニングとなっていたウェイトの両端にハンマーをくくりつけた状態で行われるトレーニング。
膝をやや曲げた状態でバーベルを担ぎ、両端のハンマーを前後に揺らしています。この際に手首は一切動かしていませんので体重移動によってハンマーを動かしているということですね。
何でも無いトレーニングのように見えますが、実は慣れないとハンマーが綺麗に動かないで、ぎくしゃくした動きになってしまうんですよね。
さらにタオルにくくり付けたウェイトを足の指で挟んで持ち上げるというトレーニング。片足立ちの状態で膝が直角になる太ももの高さをキープしますが、室伏広治氏が時折ウェイトを左右にパンパンと手で叩いてランダムに揺らし、負荷を加えています。
うめき声を上げながら耐える桐生祥秀選手。このトレーニングではスプリンターに必要な体幹の筋力やバランス感覚も養うという狙いがあるそうです。
以前のお伝えした内容では、足首から先の「足」の細かい骨一本一本に至るまで意識しながらトレーニングする事の重要性を説いていた室伏広治氏。
「細かな筋肉が集まった集合体としての足」という認識に改めるべきという考え方がここにも表れているような気がしますね。
スポンサーリンク通常のウェイトトレーニングも
さらに通常のバーベルを使ったトレーニングも桐生祥秀選手はしっかり行っていますね。
映像では桐生祥秀選手はハング・パワー・クリーンを行っています。以下の動画のような動作を参考にしてみてください。
桐生祥秀選手はトレーニング用のストラップを手につけて、ウェイトを挙げる際にはしっかりかかとを上げて、ごく小さくジャンプするようなイメージで行っています。
ウェイトを下げる位置については、動画のように太もも部までで止めるパターンとさらに膝の高さまで下げるパターンも行っているようです。桐生祥秀選手はレップ数は10を目安にしているようですね。
また、通常の肩にバーベルを担いだスクワット(バックスクワット)動作で立ち上がった際にバーベルを頭上高くまで持ち上げるオーバーヘッドプレスの動きを加えたトレーニングも行っているようです。
以下の参考動画のようなトレーニングですね。
桐生祥秀選手がバーベルを使ってトレーニングしている様子はごく短い映像でしたので、ひょっとすると以下の動画のようなベア・コンプレックスの一部を切り取った映像だったのかもしれませんね。
いずれにせよ、スプリンターに必要な筋肉の瞬発力が鍛えられるように爆発的な動作を伴ったトレーニングを行っているように思えますね。
スポンサーリンク9秒98を叩き出した際のデータ
日本インカレ陸上2017 男子100m決勝で桐生祥秀選手が日本人初となる10秒の壁を破って優勝し、日本陸上界の悲願達成となったレース。以下の動画はその時の映像です。
データで見てみると、これまで最高速度を記録していた55mを越えてもどんどんスピードが加速していき、65m付近で最高速度に到達。
2017年のレースで記録した最高速度に近い速度をラスト10mまで維持出来ているのが分かりますね。
このレースで叩き出した低下率は約3.7%を記録。
以上の事から、最高速度を引き上げ、さらにレース終盤でもそのスピードを維持出来るようになったことが桐生祥秀選手の進化と言えそうです。
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