巨人・菅野智之の凄さとは?圧倒的成績のキーワード「新球シンカー」「完封のコツ」「第2、第3の自分」とは?
巨人・菅野智之投手は2018年シーズンにリーグトップの15勝、最優秀防御率2.14、最多奪三振200という成績を残し、ピッチャーの主要タイトルを総なめ。沢村賞の選考基準全項目をクリアして2年連続での沢村賞投手となったわけですが、その圧倒的な成績の裏にある凄さとは?菅野智之本人が口にした「新球シンカー」「1試合を完封でまとめるコツ」「第2、第3の自分」というキーワードを通してその投球術の極意に迫ります。
というわけで19年2月4日放送のテレビ朝日系「Get Sports(ゲットスポーツ)」の放送内容からまとめてご紹介します。
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カメラが追ったのは2019年1月にハワイで自主トレに励む菅野智之投手。
例年通り、若手選手を引き連れてのトレーニング。
菅野「本当にコンディションが良くて、今年は。自分でも驚いてるくらいなんですけど。」
2019年のシーズンインに向けて良い感触を得ている様子。
改めて2018年シーズンの成績について自身で振り返ってもらうと、
菅野「ホントに、自分のキャリアの中でも印象深いシーズンになりましたね。」
そう語る裏には3つのキーワードがあるとの事ですが、それが、
- 新球「シンカー」
- 1試合を完封でまとめるコツ
- 第2、第3の自分
それでは、これらの項目について一つずつ見てみましょう。
新球「シンカー」
菅野智之の投手としての特徴と言えば、150km/hを超えるストレートと切れ味抜群のスライダーという2つの球種を軸にして投球を組み立てるスタイル。
これに関しては本人も、
菅野「軸は変わってないですやっぱ、真っすぐ・スライダーっていう軸があって。」
これらは揺るぎない自身の投球術のベースと語りつつも、2018年シーズンは新たな球種の習得に励んだ年でした。それが、
シンカー
左バッターに対しては外に逃げながら落ちるボール。
シンカーに辿り着くまでは様々な試行錯誤があったそうで、
菅野「チェンジアップも挑戦したけど全然ダメで。もちろんフォークでもいいんですけど、あんま手応え無かったし。」
投球の幅を広げる為に落ち球の必要性を痛感していたそうですが、結果としてシンカーに辿り着いたと語る菅野智之。
その成果としてこんなデータも。
菅野智之の2ストライクに追い込んだ後の球種割合を2017年、2018年で比較してみると、
2017年シーズンではシンカーなどの落ちる系のボールの割合が11.4%だったのに対して、
2018年シーズンでは18.1%に増加。
ストレートとシュート系のボールの割合がそれぞれ減少した分だけ落ちる系ボールの投球割合が増えている事が分かりますね。
この球種割合の変化は空振り三振数に表れており、
2017年の成績では空振り三振を129個奪ったのに対して、
2018年では158個と大幅に増加。
菅野「それがやっぱり物語ってると思う。色々僕が悩み抜いて出した答えだったので、そのシンカーという球種に関しては。そんな軽い気持ちでやっぱり取り組んでいないんで。」「昨シーズン(2018年)もずっと投げ続けました。最後まで。」
新球、シンカーの存在は菅野智之の投球の幅を大きく広げる結果になり、好成績につながったわけですね。
スポンサーリンク完封のコツ
菅野智之が2018年シーズンで記録した完封の数は8完封。
このシーズン8完封という記録は1978年の鈴木啓示以来となる40年振りの快挙。
この数字は12球団を通して断トツの数字。
コチラが2018年シーズンの完封数ランキング。
- 1位 菅野智之 8完封
- 2位 上沢直之 3完封
- 2位 武田翔太 3完封
- 4位 多和田真三郎 2完封
- 4位 山口俊 2完封
- 4位 ガルシア 2完封
2位を大きく突き放しての圧倒的な成績を残しているのが一目瞭然。
菅野「まあある程度、もうこの1試合をまとめるコツみたいなのを知ってるんで、だから自分の中である程度想定しながら投げるんですよ。『5~6回でランナー1人ずつ出ると最終回クリーンアップまで回っちゃうな。』みたいな。『じゃあ5~6回ちょっと全力で行こうか。』とか。そういう逆算をしながらベンチで考えてますね。ここはやっぱ、抑え所というか、力の強弱とか。流れもありますし。」
1試合を通して常に全開で投げるのではなく、相手打線や試合の流れなどを読みながら力の強弱を調整する術を知っているという事ですね。これは過去の放送でもギアの上げ下げ、スイッチを入れるという表現で説明されていますね。
一般的な先発ピッチャーの平均被打率は、打者1巡目に.247だったものが、4巡目以降には.300に達するというデータが存在していますが、これは至極当然と言えば当然の数値。ピッチャーの疲労感も回が進むごとに蓄積していきますし、バッターの方も慣れていくわけです。
しかし、菅野智之のデータを見てみると、
打者1巡目に.221だった平均被打率は、4巡目以降になると.203と回が進むにつれて逆に打たれにくくなるという逆転現象が起こっている事が分かります。
完封数が突出して多いのは、試合の終盤まで打ち崩されないというデータに裏付けられたものだったんですね。
さらに菅野智之自身も完封には並々ならぬ信念を持っているようで、
菅野「5点差、10点差とか、まあ楽勝の完封の時もありましたけど、『なんでそんなにコーナーに突くの?』みたいな。よく言う人いるでしょ?真ん中に投げるのは簡単ですよ。ビューって投げてババンってホームラン打たれて、そのバッターが乗っちゃったらどうするの?次のじゃあ2、3戦目打ち出したらどうするの?」
「10-5で勝つよりも、10-0で勝った方が絶対に良いんだもん。じゃあ真ん中ボコンって投げてホームラン打たれて球数かさんで(マウンド)降りて、完投出来ないかもしれない。そしたら次の試合に使いたい中継ぎも使わなきゃいけないじゃないですか。そういう所まで考えて僕は投げてるんですよ。もちろん自分の成績も大事ですよ?大事ですけど、それ=チームの成績だし。チームの事考えたら投げれない僕、真ん中に。」
自分が投げない試合の事まで見据えて、チームの勝利の為に投球するという菅野智之の信念。
「10-5よりも10-0で勝った方が絶対に良い。」と力説する菅野智之のもう一つの信念は、
「ゼロに抑える」
という事。
菅野「やっぱりどんな点差でも点を取られたくないです。それはもうずっとこだわってやってきてるんで。野球辞めるまでそれはこだわってやります。まあ僕の美学です。」
スポンサーリンク第2、第3の自分
菅野「やっぱり、現実に目を背けるのは1番ダメな事であって、調子が悪いなら調子が悪いなりの組み立てをしなきゃいけないですし、『今日はそんな調子良くないんだよ。調子に乗って勝負しちゃいけないよ。』って。第2、第3の自分がいないとダメです。」
常に自分の投球の状態について客観的な目を忘れてはいけないという戒め。そのおかげで冷静なピッチングにつながるわけですね。
それを象徴する一戦が2018年10月14日のクライマックスシリーズ ファーストステージ ヤクルト vs 巨人戦。
この試合で菅野智之は史上初となるポストシーズンでのノーヒットノーランを達成。
この試合について菅野智之自身に振り返ってもらうと、
菅野「いつもより球来てないなとか、調子自体はあまり良くなかったので、やっぱりこういう調子が悪い時って、スピードガンを見るわけですよ。大体投げて『どん位なのかな?今日の調子。』って。『わー142、3キロしか出てないな』って。」
ノーヒットノーランを達成した試合でも調子自体はあまり良くなかったという自己分析。
実際にストレートの平均球速に注目してみると、
2018年シーズンを通してのストレートの平均球速が148.0km/hなのに対して、
10月14日のヤクルト戦は144.1km/hとおよそ4km/hも下回る数値。
ではそんな状態が芳しくない中でなぜノーヒットノーランを達成出来たのか?については、
菅野「(球速が)もっともっとって思わないですけど、力みがちなんですよね。でも調子が悪いなら悪いなりの組み立てをしなきゃいけないですし、『今日の調子で勝負したらダメだよ。』とか。ある程度引いた自分で見れてないとやっぱりダメですよね。まあでも冷静に見ていられたと思います。」
冷静に自分の状態を客観視しながら投球を重ねていく上で特に意識したのが、
菅野「まあコントロールは間違えなかったです。スライダーが中に入ったりとか、真っ直ぐがシュート回転して中に入ったりとかっていうのはほぼ無かったような気がします。僕は。大体狙った所に行ってたなっていう。」
菅野智之という投手を語るうえで外せないコントロール。
狙ったコースと逆に投げてしまう、いわゆる逆球の数をデータで見てみると、
10月14日のヤクルト戦では全113球のうちで僅かに1球しかなかったという数字が明らかに。
その日の状態に合わせて投球を組み立てるという冷静な第2の自分の存在を確立している事がノーヒットノーラン達成の呼び水に。
さらにこの試合の経験を通して菅野智之は新たな感覚を得たようで、
菅野「投げてる感じもだんだん良くなって来たし、力感なくすごく投げれてるなって。だから今シーズン以降につながるピッチングの仕方というか、そういうのはやっぱり感じて。」
「自主トレ中も力感なくキャッチボールというのを心がけて、テーマに持ってやってるんですけど。」
ノーヒットノーランの舞台で新たに得た「力感なく投げる感覚」をさらに研ぎ澄ます菅野智之。
菅野「誇れる数字は残せたとは思っています。ただ、もっと出来ると思います。何がっていうよりも、全てにおいて。勝ち星も防御率も、完投数、完封数。もっと増やせるって思ってます。」「1ミリも満足してないです。」
「やっぱり、現状の全ての事をレベルアップさせるっていう。何か新しくやるという事はもうしないです。シンカーもある程度操れるようになったし。真っ直ぐももっと速くなると思ってますし。今出来る事を最大限やるってのが目標です。」
スポンサーリンクチーム環境の変化
2019年シーズンの巨人軍は原辰徳監督の新体制になり、移籍選手などもあってチーム環境は大きく変化。
菅野「丸(佳浩)も入って、監督も代わって、やっぱそういう刺激というか変化っていうのは僕の中ですごく大切なもので。」
「毎年やっぱり同じ環境でいると慣れちゃうんで、目標も設定し辛いですし。やっぱりチームの目標がここ何年かボヤケているような気がしたので。戦ってて本当に勝てるのかな?って正直持っていた部分もありました。戦いながらね。それは僕自身も反省しなきゃいけない所なんですけど。でも今年はホントの意味で『よしやってるぞ!』っていう、本当の気持ちで臨めるような気がするのでモチベーションはすごく高いです。」
さらに毎年ハワイの自主トレに引き連れている後輩選手たちに対しては、
菅野「彼らがね、なかなか結果残してないので僕もやっぱり責任感じますし。でもホントにここは難しい所で、やるのはアイツらなんで。まあピッチャーも岩隈(久志)さんが入ったりとか、競争っていうのはやっぱ激しくなると思いますし、彼らにとってもいい刺激になると思うので、本当の意味で今年はみんなにとって勝負になるんじゃないですかね。」
ハワイのトレーニングに同行した選手たちの2018年の成績を見てみると、
- 桜井俊貴 1軍登板なし
- 宮國椋丞 0勝
- 中川皓太 1勝
菅野「チームとしてはもうね、4年も優勝出来ていないっていう。すごく情けない。僕も中心選手として悔しいですし。まずはリーグ優勝。そして日本一っていう目標転換出来るように。」
「個人としては20勝、沢村賞。そこだけです。」
チームを勝たせる投手、菅野智之。
その凄さの一端を垣間見る事で新シーズンに向けての覚悟も見えてきたような気がしますね。