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「関ジャム」よりフィギュアスケートと音楽の重要な関係性。選手達はどんな基準で曲を決める?


フィギュアスケートの重要な要素と言えるのが「音楽」。フィギュアファンからすると曲を聴くだけであの選手の名演技が勝手に思い浮かぶぐらい思い入れが強かったりしますよね?では選手目線からすると音楽と演技はどのような関係性があるのでしょうか?

勝てる曲の秘密や音楽表現の裏側などフィギュアスケートと音楽の関係性について本田武史、村上佳菜子、小塚崇彦の3名を解説陣に迎えて2018年6月24日に放送されたテレビ朝日系『関ジャム 完全燃SHOW【フィギュアスケートと音楽の大事な関係】』より、その謎に迫ります。

ジャンプやスピンだけではないフィギュアスケートの楽しみ方とはどんなものなのでしょうか?

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解説陣

  • 本田武史 – 競技会で日本人初となる4回転ジャンプを成功させ、全日本選手権6回優勝、2002年ソルトレイクシティオリンピック4位の成績を残す名スケーター。現在では解説でも有名ですよね。
  • 小塚崇彦 – 2006年世界ジュニア選手権金メダル、2010年全日本選手権優勝、2010年バンクーバーオリンピック8位入賞などで知られる。
  • 村上佳菜子 – 2010年世界ジュニア選手権金メダル、2010年GPファイナル銅メダル、2013年世界選手権4位などで知られ、現在ではバラエティ番組への出演も数多くこなしていらっしゃいますね。

音楽と採点

本田「ジャンプ、スピンっていうメインにくるものじゃない所の点数が大部分を占めてるっていう。」

村上「意外と重要なんですよ。音楽とのつながりっていうのが。」

このようにお二人がコメントされていますので、まずはフィギュアスケートの採点について、音楽がどのように得点に影響しているのかを中心に簡単にまとめておきましょう。フィギュアスケートと音楽の関係性「関ジャム」より 採点

まずは技術点と演技構成点の2つに大きく分かれます。

技術点のつくジャンプ・スピン・ステップには技の種類によって基礎点が設定されており、出来栄えによってプラスマイナスの評価がつきます。

演技構成点ではプログラム全体の芸術性を見る項目で、各項目を10点満点で評価されます(フリーは2倍)。

この中で音楽との関わりが深いのが演技構成点。

  • スケート技術
  • 要素のつなぎ

についてはスケートの滑らかさやステップのうまさなどの技術的な面、ジャンプとジャンプの間にどのような工夫がされているかなどですが、

その中でも、

  • パフォーマンス
  • 振り付け
  • 音楽の解釈

の3つが特に音楽面の要素。

小塚さん独自の解釈では振り付けとは、

「ジャンプの位置や、スケートリンク全体を上手く使えているか」

音楽の解釈は、

「音楽と振り付けがマッチしているか」

パフォーマンスは、

「全身で振り付け&ジャンプをしっかりパフォーマンス出来ているか」

また、表情による演技については音楽の解釈の範疇に入るのではないかという見解。

ただ、あくまで「小塚さんの解釈」となっているため、この辺は選手によって捉え方が違う場合がある点に注意が必要です。

大会によってジャッジの求めているものが違っている場合が多いのでジャッジに好まれるようなプログラムの構成を決めるのも重要になってくるそうです。

ただ、どのジャッジが採点を担当するのかは大会直前に分かるそうなので、結局のところは曲をどれだけ自分のものに出来ているかが最も重要になると村上さんの意見。だからこそ自分の勝負曲になる曲選びが非常に重要になってくるわけですね。

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必須要素

SP(ショートプログラム)、FS(フリースケーティング)にはそれぞれプログラム中の必須要素についてのルールが存在していますが、その中で音楽との関わりが最も深いのが、

  • ステップシークエンス
  • コレオシークエンス

の2つ。

ステップシークエンスでは決められたステップやターンなどがバランスよく右回転、左回転と含まれていて、ステップの数も決められており、レベル1~4の4段階で評価されます。

コレオシークエンスでは特にレベル評価はされないものの、曲を自由に表現出来るブロック。例えば荒川静香さんで一躍有名になったイナバウアーはここに含まれます。

音を捉える振り付け

音楽と演技の融合を考えるうえで小塚さんの意見では、

「スケートは楽器の一つで曲の一部になるように音を捉える振り付けを重要視」するそう。

曲中でなるピアノやバイオリンの音と同じように氷を削る音を音楽の一部に融合できるよう意識していたそうです。音楽や楽器に自分がなる感覚とのこと。

ただし、これについては「足さばきが素晴らしい小塚くんだからこそ出来ること」という村上さん。「絶対、私出来ないです。ガリガリガリってなります。」だそう。

例えば小塚さんが演技で使用していた「TAKE FIVE」の曲は5拍子が特徴のジャズの名曲ですが、

この曲の5拍子のリズムをしっかり身体で表現して刻めるかをポイントとしていたそう。さらに演技の盛り上がりに合わせて徐々に「拍」に合わせる動きを少しずつ増やすという工夫を行っていたそうです。

また、5拍子だけ延々と取り続けているとそれはそれで単調になってしまうので、拍だけではなくサックスやドラムの音にも徐々に動きを合わせて変化を加える工夫も。

こちらがその演技動画。2008年スケートアメリカのショートプログラムからです。

曲の初めごろは1拍目でのみ振り付けを行っているのがお分かりになるでしょうか?特に1回目のジャンプまでは顕著ですよね。

そこからは1拍、2拍、3拍で取るパターン、1拍、3拍、5拍で取るパターン、1拍、4拍、5拍で取るパターンなどを組み合わせて徐々に動きが激しくしていき、後半に入ると5拍全部を取って最高潮へ。1:50頃のステップシークエンスではほぼ5拍子全てを取って表現していますよね。

また1:20頃のサックスの音に合わせた振り付けや2:20頃から差し込まれるドラムのリズムに合わせて振り付けにアクセントをつけているのが分かりますよね。

このようにジャッジや観客が「こんな動きをして欲しい」と求めているものを想像しながら演技に上手く盛り込んで振り付けを行っていますね。

何となく振り付けとして手足を動かしているのではなく曲にマッチさせるとはこういう事なんですね。ダンスでいう所のいわゆる“音ハメ”というやつですね。見ていて気持ちがいいと感じるものはジャッジも同じように感じるわけですからそれは得点にも反映されるんですね。

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 髙橋大輔のステップ

そんな小塚さんが世界No.1のステップとして絶賛するのが髙橋大輔選手。

その鑑賞ポイントは「リズムより音を重視・上半身と下半身のバランス」

よりリズムを重視していた小塚さんとは違い、リズム+音(メロディ)に合わせて上半身、下半身とバランスよく動けている点が特徴。さらに言うと上半身と下半身のそれぞれで別の音を取ったりという工夫も見られるそうです。

こちらがその演技動画。2013年NHK杯のフリースケーティング。曲は「ビートルズ・メドレー」

1:44からの「Come Together」のパートでは下半身でリズムを取り、上半身で音を取る振り付け。

足と上半身を細やかに使って巧みに音を取る動きが演技構成点に大きく影響していて高得点の評価につながるという小塚さんの分析。

2018年7月1日には4年ぶりの競技会(現役)復帰を表明したことで、これからの演技に注目したい所ですよね。

羽生結弦の音楽表現

言わずと知れたトップスケーターの羽生結弦選手。

当然ながら圧巻の4回転ジャンプに注目がいきがちですが、小塚さんが注目するのはジャンプの前。

普通の選手だとジャンプにいく予備動作で助走区間を取りますが、羽生選手の場合はステップを踏みながら急にジャンプを跳んでいるイメージだそう。

それはジャンプの直前ギリギリまで音の表現が出来ているということなので高得点につながるとのこと。助走区間を長くとればとるほど「音楽を無視」しているということですので減点の対象になってしまう所を逆に加点されるような工夫になっているわけですね。

小塚「ちょっとずつの積み重ねなんですけど、莫大な点数になる。」

以下の動画は2018年平昌オリンピックから羽生結弦選手の伝説ともなったフリーの演技。※表示がブロックされますので「YouTubeで見る」からご視聴ください。

助走を極限まで短くしてギリギリまで演技することが高い演技構成点を叩き出す要因の一つになっていると小塚さんの分析。

ジャンプに不安を抱える選手によっては一小節分を丸々助走に充てるケースもよく見られますが、羽生結弦選手のように絶対的なジャンプへの自信があってこそこのような細かい工夫が可能になると本田さんの見解。

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フィギュアスケートの選曲とは?

曲を2つに分類

何気なく聞いているようなフィギュアスケートの音楽ですが、選手目線で見るとフィギュア音楽は大きく2つに分類されるそうで、

  • ストーリーが想像しやすい曲
  • ストーリーが想像しにくい曲

例えばストーリーが想像しやすい曲とは、羽生結弦選手も使用していた「オペラ座の怪人」に代表されるようなオペラ。

また、キム・ヨナ選手が使用していた「ジェームズ・ボンド・メドレー」などの映画音楽。

そしてアリーナ・ザギトワ選手が使用していた「白鳥の湖」などのバレエ楽曲。

このような映画・オペラ・バレエ楽曲などはストーリーが想像しやすい曲の分類。

曲が鳴った時に観客が映像を瞬時に思い浮かべられるかがポイント。

一方、ストーリーが想像しにくい曲とは、織田信成選手が使用した「グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調」などのピアノ曲。

先ほどの例に登場した「TAKE FIVE」などのジャズ。

そして安藤美姫選手が使用した「モーツァルト:レクイエム」などのクラシック音楽。

以上のピアノ曲・ジャズ・クラシックなどはストーリーが想像しにくい曲の分類。

選曲の基準

では選手はどのような基準で曲を決めているんでしょうか?

選手によって得意不得意がはっきり出るそうで、

本田武史さんはオペラ・映画音楽などのストーリー系の音楽を得意としていたそう。理由としては既に用意されているストーリーを演じるだけでいいので主人公になり切れる点。

村上佳菜子さんも同様に映画音楽・ミュージカルなどのストーリー系の音楽。

小塚崇彦さんはジャズなどの映像がパッと浮かばない曲のほうがどちらかと言えばお好きだったよう。

ただし、ストーリー系の音楽にはそれゆえの難しさがあり本田さん曰く「諸刃の剣」だそう。

ストーリー性がある音楽の場合は全員が同じ感覚で見ているとは限らず、人によっては違う解釈をしている人もいる場合がある点がネックとのこと。

ましてや海外のジャッジによっては違う価値観で「オペラ座の怪人」などを観ている可能性もあるのでリスクになりえるわけですね。

ただ、その代わりに完璧にハマった時は最高に気持ちいいのがメリット。

フィギュアスケートではオペラやミュージカルが「勝てる曲」として選曲されるケースが多いのですが、それは感情移入がしやすく、フィギュアスケートとの相性がいいからだそう。

曲の中で盛り上がるシーンや逆に静かに表現するシーンなどがバランスよくミックスされている場合が多いため演技構成を考えるうえでもより有利になるとの事。観客の心を掴むための曲としてピッタリということですね。

以下の動画は2002年ソルトレイクオリンピックからショートプログラムの演技。ショート2位となった演技です。曲は「ドン・キホーテ」

本田さんの演じたドン・キホーテの注目ポイントとしてはドタバタ劇からハッピーエンドまでを表現したスピード感や躍動感。

2:40のスピンからのスピード感、ダイナミックな振り付けにご注目。

「ドン・キホーテ」は勇敢な騎士に憧れた男が騎士として旅に出て様々な事件を巻き起こすドタバタ珍道中ですが、バレエ作品中では物語の中心は若い男女の恋が描かれており、主人公のドン・キホーテはどちらかと言えば物語の進行役を担当しています。

本田さんは当時、実際にドン・キホーテを演じたバレエ団に出向いて音のとり方、顔の角度、手の動かし方、ポジションに至るまで細かく指導を仰いだそう。

これについては別記事:

ジャッジが語るフィギュアの見方。羽生、宇野、宮原、坂本らの表現力、その採点基準とは何か?NHKより

でも触れておりますのでご参考に。

曲のフィニッシュではきっちり決めポーズも入ったところで一気に観客の大喝采が巻き起こる様はまさに狙い通り。

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荒川静香のトゥーランドット

そんな本田武史さんが「完璧にストーリーを演じた名演技」と称するのは、荒川静香選手の「トゥーランドット」

以下の動画は2006年トリノオリンピックから荒川静香選手のフリーの演技。言わずと知れた金メダル獲得の演技。曲はオペラ楽曲の「トゥーランドット」です。※表示がブロックされますので「YouTubeで見る」からご視聴ください。

オペラ「トゥーランドット」とは氷のように冷たい心を持った伝説上の中国皇帝の娘トゥーランドットとその心を溶かす王子カラフとの愛の物語ですが、物語のクライマックスであるトゥーランドットとカラフが結ばれるシーンに荒川静香選手が披露したのはあのイナバウアー(動画では3:22付近)。

本来であればジャンプなどの大技を持ってくるのがセオリーですが、あえてイナバウアーを選択した所に荒川静香選手の覚悟が見えるとのこと。

本来であればイナバウアーとは片足を曲げてもう片足を伸ばして横方向に滑る技を指し、上半身の反る姿勢は技術点の対象にならないということは皆さんもう常識としてご存知だと思いますが、あの美しいポーズはお見事としか言いようがありませんね。スタジオで観ていた村上さんは未だに鳥肌が立ってしまうとのこと。

もはや「トゥーランドット=イナバウアー」とすぐさまイメージされる程に自分の曲にしてしまった荒川静香選手の圧巻の演技。

今後この曲を勝負曲に選ぶという事は常に「荒川さんと比較される」と小塚さんの意見。

村上佳菜子の選曲

村上佳菜子さんは既に触れている通り、ストーリー性のある曲を選ぶ傾向にあるそうですが、そんな彼女でもあえてストーリーの無い曲を選んで自分の思いを込めたという経験があるそう。

振付家の平山素子さんが振り付けを担当した曲では新しい表現に挑戦したとのこと。

平山素子さんといえばコンテンポラリーダンサーとしても知られ、ミュージカル、シンクロ(アーティスティックスイミング)、フィギュアなど多方面で振り付けを担当してらっしゃいますよね。

そんな新境地を開拓するきっかけとなった曲が2001年にヴァイオリニスト川井郁子さんがリリースした「ヴァイオリン・ミューズ」。

東日本大震災の直後にプログラムを作ってもらったというタイミングだったために復興への願いを込めて、ガレキから立ち上がっていき、最後は光に手を伸ばしてエンディングを迎えるという独自の世界観が振り付けには込められているそう。

平山さんの振り付けでは細かい手の動きなどの一つ一つにも事細かにストーリーがあるとのこと。

スタートからガレキから抜け出して、探す、心が痛む、光を掴んで放すなどの細やかな表現が振り付けられているそう。

以下の動画は2012年世界フィギュアスケート選手権から村上佳菜子選手のショートプログラムの演技。曲は「Violin Muse」です。

2:10付近のレイバックスピンでは「あーーっ!!」という叫びのような気持ちでやりなさいという指導であったり、ジャンプも飛び立つように跳びなさいと言われていたそう。

ステップシークエンスでは「これから私は頑張るんだ!!」という感情。

ただ、こういった細かな動きの意味についてはジャッジに全て伝わるものではないのですが、自分がしっかり意識することで何かを感じてもらえるようにという思いで演技していたようですね。


いかがでしたでしょうか?このように音楽とフィギュアスケートの関係性は非常に奥が深く、曲のリズムや楽器に合わせた振り付けもフィギュアを観る際の重要な鑑賞ポイントですよね。これらの知識を意識しながら応援すればまた違った楽しみ方が出来そうです。

「関ジャム」に関する全記事はこちらのリンクから

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