火事で逃げ遅れるのはなぜ?本物の家を燃やす実験から分かる火事の時の正しい避難方法。その逃げ方とは?
連日のようにニュースで報じられる火事。火事速報を見てみると怪我を負ってしまったり、逃げ遅れてしまったりという被害者が日本国内で1年間に7000人にも及ぶとか。もしあなたが火事に遭ってしまったら素早く避難出来る自信はありますか?小学生の時に火災・防災訓練に参加した経験はあっても、家庭で火事に遭った時の正しい逃げ方についてはほとんどの人が未経験のはず。
というわけで19年1月15日放送のNHK「すごいよ出川さん!本物の火事&土砂崩れ!衝撃映像満載のメガ実験バラエティー」から実際の火事を再現するという大がかりな実験から明らかになる火事の時の正しい避難方法(英語:fire evacuation)についてご紹介します。
これを見ると、なぜ火事で逃げ遅れてしまうのか?という疑問に対する答えの一端が明らかになります。
スポンサーリンク火災実験
火事が起きたらすぐに逃げる。
というのは誰でも分かる事。・・・ですが、実際には多くの人が逃げ遅れてしまう実情。
火災の専門家、日本火災学会元理事である鈴木弘昭先生にお話を伺うと、
火災の実態についての調査数はまだまだ数が足りないとの事。
鈴木弘昭先生「実際にそういうもの(家などの建物)を燃やす実験はまだまだ、必ずしも多くはありませんので。」「実際の建物になった場合と、板(の燃焼実験)の場合と燃焼性が全然違うんです。」
通報から消防車が現場に到着するまでの平均時間は大体7分と言われていますが、その7分間の間に何が起こるのかについて本物の家を燃やす実験で確かめてみようというのが当番組の企画主旨。
実験の舞台は栃木県 岩船山。ここは採石場の跡地でカースタントや爆破スタントなどにも使用される有名な場所。バラエティの芸人の聖地でドッキリなどで使用される事も多いとか。
まずは実験用の一軒家を建設するところからスタート。
番組MCの出川哲朗さんはその出来上がった家を見るなり「プレハブ小屋」と形容していますが、
実際は、実験用に作られた簡易な“家風”の建物やプレハブ小屋のようなものではなく、基礎を作って、50本もの柱を入れて、一般住宅にも使われる耐火ボードも設置した本格的な家。
地元の工務店さんが70年持たせるように作ったという力作。
広さは、1階が8.5畳のキッチン付きのリビングダイニング。トイレももちろん完備。
2階に上がるとコンパクトな寝室。3畳間ぐらいのスペースでしょうか。
一人暮らしであれば十分なスペースの間取りが確保された木造二階建てですね。
そして内装には本物の家具も設置。ソファや戸棚、ハンガーラックなどなど。不用になった冷蔵庫や洗濯機などの家電もしっかり置かれています。
スポンサーリンクフラッシュオーバー現象
実験は火災のエキスパートである鈴木弘昭先生も立ち合いのもと行われます。
鈴木先生によると、今回の実験の一番の狙いは火事場に現れるというある現象を確認する事だそうで、それは、
フラッシュオーバー現象 (英語:flashover)
フラッシュオーバーとは炎が爆発的に広がって、これが起きると火災現場の温度が急上昇して大量の有毒ガスが発生。このフラッシュオーバーが起きてしまうとその場にいる人間はまず助からないと言われています。
ある瞬間から急激に火が伸びるので「まだ大丈夫だろう。」という油断が死を招いてしまうそう。
コチラは海外の動画。あるポイントから一気に炎が広がる光景がお分かりでしょうか?カメラがすぐに退避しているので助かりますが、あの部屋にもし居続けたとしたら・・・。
ただ、実験でこのフラッシュオーバーを再現するのは非常に難しいそうで、記録された映像の数自体も非常に少ないとの事。
今回の実験では貴重な実験資料になるので、1000℃まで耐えられる耐火ボックスに入れたカメラを部屋の至る所に計8台設置。
さらに部屋の中央部分に360度カメラを設置。外からは驚異の高画質を誇るNHKの8Kカメラもスタンバイ。
万が一に備えて消防も全面協力でポンプ車も手配済み。
また、実験には、国土技術政策総合研究所、建築研究所なども協力。
火災現場のレスキューの専門家として日米でレスキュー活動を行った経験があるサニー・カミヤさんも登場。
ここに、家事を一部始終を目撃する一大実験が始まります。
ちなみにバックドラフト(英語:backdraft)という言葉も聞いた事があるかもしれませんが、こちらは火災現場で密閉された空間に可燃性の一酸化炭素がたまり、その状態でドアが開けられたりして新鮮な空気が流れ込んだ時に爆発的な現象を引き起こす事を言い、フラッシュオーバーとは別の現象。
同名タイトルの映画で有名になりましたよね。
コチラがバックドラフトを再現する動画。動画の最後にキャノン砲のように炎が噴き出す瞬間が捉えられています。
あんなものを生身で食らったらひとたまりも無いでしょうね。
また同様の単語にロールオーバーまたはフレイムオーバー(英語:rollover、flameover)という現象も存在しますが、コチラは可燃性のガスが天井付近に溜まり、発火点に到達したときに一気に燃え広がる事を指し、天井付近のガスがローリングするような動きを見せる事から名付けられた現象。
コチラの動画では天井付近に炎が渦巻くようにして伸びる様子が分かりますね。
スポンサーリンク天ぷら油火災
まずは大規模実験に移る前のミニ実験という事で、天ぷら油の発火実験をチェック。
天ぷら油は360℃を超えると発火しますがカセットコンロで油の入った鍋を加熱していくと突然発火。
すると、鈴木先生が冷蔵庫から取り出したのはマヨネーズの入った容器。
フタの部分を手で持って、マヨネーズが入っている方を火に向けるようにして鍋に投入するそう。
消火のポイントは「油の温度を下げる」ということなので、マヨネーズはその為の非常手段の一つとの事。
その他に厚手の濡れタオル(バスタオルほどのサイズが最適)をためらわずに鍋に被せるのも効果的。
というか濡れタオルが一番確実な方法だそう。
ただ、タオルを被せた後にすぐにタオルを取ると再度発火してしまうので油の温度が十分に下がった所を見計らうのもポイント。
またマヨネーズに話を戻すと、火への恐怖心からマヨネーズを投げ入れると、油が飛び散って火が燃え広がってしまう恐れがあるので絶対にNG。
絶対に投げてはいけません。
実際にマヨネーズを静かに投入してみると、一旦は火の勢いが強くなるかに見えますが、みるみる火の手は弱まって油の表面にマヨネーズの膜がフタをする格好に。
そして天ぷら油の発火で一番やってはいけないのは、
水を入れる事
水を入れるとどうなってしまうのかはコチラの動画。
動画内では火の勢いが弱いうちはシンプルに鍋のフタを被せる方法と、ベーキングソーダ(重曹)をかける方法も紹介されていますね。
ただし、一番ベストなのは消火器なのは言うまでも無いですが。
住宅火災実験
さて、ここからはいよいよ大規模実験スタート。
ストーブに洗濯物が落ちてしまい、それを火の元として火災が起きるというシチュエーションを想定。
しかし、実験はいきなりスタートからつまずきます。
タオルをストーブにかけてから5分が経っても黒い焦げが発生しているものの火の手は上がらず。
小さい部屋用のストーブなので火力が弱いのでは?という見立ての鈴木先生。
このままではらちが明かないのでチャッカマンで強引にタオルに着火。
気を取り直して、ストーブは部屋の隅に設置してあるので徐々に壁に燃え移り始めます。
逃げ遅れにつながるよくあるケースが、財布や鍵などを取りに行っている間に火に囲まれるというもの。
というのも炎は15秒もあれば一気に大きくなるので、財布はどこにやったかな?なんて考えているとあっという間に逃げ遅れてしまうんですね。
実験でも火の高さは猛然と高くなって一気に天井の高さまでに到達。そこから天井を伝って横に広がり出します。この時点で着火からわずか2分30秒。
生身の人間は実験現場から退避するように指示。すでに危険な状態です。2分30秒で火が天井の高さに達する頃が生身でその場にいられる限界ギリギリ。
サニー・カミヤさんだけはガスマスクを装着した状態でその場に居続け、炎を観察しながらその退避のタイミングをギリギリまで探ります。
そして火元の壁と反対側の壁にかかっていた額縁に入った絵が落ち出します。これは壁が歪んだことによる影響との事。
その直後に限界を感じたサニー・カミヤさんが退避しますが、それとほぼ同時にフラッシュオーバー現象が発現。
真っ黒な煙の量が急激に増えて、天井の炎が一気に広がり出します。
火災発生から4分30秒時点から5分30秒時点の1分の間に火元周辺の温度は400℃から850℃に急上昇。
フラッシュオーバーを境に室内の状況は一変した事が分かります。
ここで何よりも恐ろしいのが皆さんよくご存じの一酸化炭素。
一瞬で人を失神させる有毒ガスで火事の死亡原因の大半を占めるのがこの一酸化炭素と言われています。
フラッシュオーバーの後に濃度が一気に上がるので一度でも呼吸したら死に直結。
そして実験映像から鈴木先生は火事で生き残るための重要なポイントについて再確認。
鈴木弘昭先生「煙の層がしっかりと分かれているという事が分かりましたので、これはすごく綺麗な映像だと思います。濃い煙の下は空気が豊富ですから、はいずって避難すれば危険からかなり逃げられるという事になります。」
立てば死、かがめば生き残るのが生死の境界線。
場合によっては自衛隊や軍隊などで訓練されるほふく前進も必要になりそうですね。とにかく息を吸う高さを出来るだけ下げる事が重要。
ただし、火事の状況がどんどん悪くなると煙のせいで極端に視界が悪くなるという事もあり、床付近に置かれたカメラの映像からは非常に厳しい視界確保の実情も見えてきます。
コチラはややコンセプトがズレてしまいますがとりあえず参考動画。「自衛隊 LIFEHACK CHANNEL」から。ちょっとギャグっぽい内容ですが、ほふく前進の動き方・避難方法の参考にはなると思います。
移動スピードや頭の高さでほふく前進にはバリエーションが5種類と自衛隊では教えられているようですが、火事の現場では状況に応じて逃げ方を変える必要がありますね。
コチラは海外の動画からフラッシュオーバーの再現実験。実験のために部屋が大きく開口しているポイントや部屋の狭さなども考慮にしてもたった3分でフラッシュオーバーが発生して部屋が炎で真っ赤と言うか真っ白になる様子が分かりますね。
ちなみに建物が全て火に包まれる状況を英語では“fully involved”と表現するんですね。
また、煙を吸わないようにという点では大型のビニール袋を利用するという事も考慮すべきだそうです。コチラがその旨を伝える警視庁警備部災害対策課のツイート。逆にビニール袋による窒息には留意すべきですが、覚えておいて損は無さそうです。
スポンサーリンクあるホテルに、避難グッズとして透明ビニール袋が置かれているのを見つけました。火災発生時、頭からかぶることで有毒な煙を吸わず、目を開けたまま避難できるものです。窒息の危険性があるので使用方法に注意が必要ですが、緊急時における身近な物の活用術として覚えておきたい技だと思います。 pic.twitter.com/zF0Ud4LaiG
— 警視庁警備部災害対策課 (@MPD_bousai) 2017年11月23日
2階の様子は?
実はこの実験の目的はもう一つ。
階下の部屋で火事が起こった時に上の階では何が起こるのか?という事も実験で観察。
2階には煙のエキスパートのスタッフさんが万が一のために避難経路を複数確保した状態で待機。
下の階の火元の温度が1000℃を超える頃、そのすぐ上の2階もさぞかし大変な状況になっているかと思いきや、なんと室温20℃。
1階では窓ガラスも割れて煙がモクモクと建物の外に立ち上り始めますが、
この位になっても、やっと2階では一酸化炭素濃度がわずかに上昇する程度。もし寝ていたら絶対に気付きません。
ここで念のために防煙マスクを装着。
その直後に煙がわずかに部屋に侵入して、火災報知器が反応。この時、扉一枚向こう側の階段付近のカメラは視界がかなり遮られた状況を捉えています。火元の黒煙とは違い白煙が主ですが有毒ガスには変わりありません。
ドアを開けると一気に煙が入って来て、その煙の温度もかなりのもの。マスクを装着していなかったらこれだけで一酸化炭素中毒に陥って意識を失うリスク。
限界を迎えた6分50秒時点で2階からはしごを使って脱出。消防車の平均到着時間は約7分ですから、火の手が上がった瞬間に通報したとしてもギリギリのタイミング。
この実験でわかるのは、
火元では無い部屋にいると火事に気付くのはかなり難しいという事。
どれだけ火災報知器が重要かが分かります。
いざ気づいてもその時点では既に火事がかなり進行した状態のため、避難が困難になるのは目に見えています。
※火元の部屋に火災報知器が設置されていると、火の手が上がって15秒ほどですぐに反応するそうです。これなら違う部屋にいても避難する時間は十分確保出来そうですね。
実験では窓の外からはしごで脱出していたのである程度安全に避難できましたが、建物の中を通って避難するのは一酸化炭素のリスクが大きすぎるため無理でしょう。
煙を吸わないように息を止めて、視界がほぼゼロの中、階段を駆け下りて玄関ドアまで到達できるかどうか?ですが、難しいですよね。ドアが熱で変形して開けられないというケースも考えられますし。
先ほどご紹介したゴミ袋を使ったライフハックを使ったとしても避難経路がしっかり確保されていないと厳しい状況。
そうなると、消防車が到着して救出してもらうまで待つ時間を稼ぐというのも選択肢ですね。
着火から9分が経つ頃には屋根が燃え始めます。ほどなくして家が丸ごと火の海に。
黒い火の粉が外に飛んだ事で外に置いてあったザルに延焼。
建物が焼け落ちるまで見守って火災実験は終了。
スポンサーリンク専門家からのアドバイス
実験結果から専門家からのアドバイスは、
- 小さな炎でも数十秒で危険な火柱に成長。初期消火に失敗したらどんなに遅くても炎が天井に達する前に一目散に逃げろ!
- 絶望的な状況でも足元には命を救う酸素が残る。床を這って出口を目指せ!
- 火元ではない部屋では意外なほど火事に気付きにくい。異変が現れた時にはもう既に手遅れの場合も。
というわけで、リアルな家を使った住宅火災の実験から分かる正しい火事の時の避難方法についてでした。