ウイルス学の世界的権威・河岡義裕が語る新型コロナウイルスとは?情熱大陸より
日本政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の一員であり、在籍する東京大学医科学研究所ではワクチン開発にも取り組んでいるウイルス学の世界的権威・河岡義裕が2020年4月12日放送のTBS系「情熱大陸」に出演し、危機的状況を乗り越えるために私たちが今出来る心構えを紹介。その詳細について番組の放送内容を元にお伝えします。
※日付については番組のテロップ表示に基づいていますので、河岡義裕氏の発言が必ずしもその日に発言されたものかどうかは正確には分かりかねます。
太字で記載していますが、以下の発言内容は専門家と言えども“あくまで個人の意見”になっておりますのでその点はご留意ください。
スポンサーリンク20年3月24日
今回の取材における全ての発言は“あくまでも個人の意見”と前置きした上で、
「ロックダウンの可能性は全然ありますよ。こんな調子でやってると。これもう元に戻ってるので。ということは海外と同じ事をやってるという事なので。流行前の。『日本は負けないぞ。』みたいな幻想を日本人みんな抱いてるんですよ。各国がものすごく増えているのに日本だけ低いじゃないですか?『日本はこれでいけるんだ。』みたいな幻想があるんですよ。それ大間違い。だってウイルスは人を選ばない。」
こう警鐘を鳴らしたのが3月24日の取材時点。
そして取り組んでいるのが新型コロナウイルスのメカニズム解明。
「マジでヤバいんだけど、これ防げるんですよ。それを一般の人たちに分かってもらうようにするのが我々の使命だと。それは凄く責任感があって。そのために我々存在していると思うからやらないといけないと思うんですね。」
この3か月あまりほぼ休みなしで日々研究に明け暮れる毎日。
それでも淡々と毎日をこなしているので疲れはないと語る河岡義裕。
いつ起こるともわからない爆発的な感染のリスクを防ぐには“一人一人の努力にかかっている”と強く主張。
「感染症って病原体に触れなければ感染しないわけだからすごく簡単。でも世の中でそういうわけにはいかないからあれなんですけど。ただこれに感染したら死ぬぞって事が分かっていればみんなもっと真面目にやるでしょ?」
複数のチームを同時進行で指揮して取り組んでいるうち、電子顕微鏡を使った新型コロナウイルスの分析もその一つ。
ウイルスを感染させたサルの腎細胞をおよそ1万倍に拡大して観察できたのが細胞内そして細胞の表面にウイルスが増殖している像。
「コロナウイルスの中身がどうなっているのか見たい。どうなってるかを知りたい。」
コロナウイルス粒子の拡大画像を見ると、
「これね、よくよく見るとすごく面白くて、この表面に綺麗なスパイク(ウイルス表面の突起)が見えるでしょ?割と綺麗に見えてるんですよね。あと面白いのがウイルスが必ずしも同じ大きさじゃないんだよね。同じ大きさのウイルスもいるんですよ。だけどこれは同じ大きさじゃなくて。」
「ウイルスそのものは他のコロナウイルスとそんなに変わらないんですよね。ただ、どういう動物に感染するか?とか、どういう細胞に感染するのか?という風な割と基本的な事が分かっていないので。」
研究所には新型コロナウイルスに感染した患者の検体が定期的に届く。
既にウイルスの毒性は消えているため感染の危険はないが、この日送られて来たのは免疫抗体を持った可能性がある患者の血清。
抗体を探るのも重要なミッションの一つ。
研究所内で感染者が出ても研究が滞らないように総勢20人近いスタッフは全て別室での作業。
その一つでは、時間ごとに感染者の体内に出来る抗体の量。
「感染した人がみんな抗体を持っているか?高い抗体を持っているかどうか?ちゃんと(リサーチ)したい。」
抗体獲得のプロセスが明らかになれば今後の対策の希望の光になるハズ。
時にはふとしたひらめきも突破口になるのだとか。
教授を務めるアメリカ・ウィスコンシン大学とも連携し、スタッフに対して実験の指示。
ここで指示していたのは「新型コロナウイルスは猫同士でも(飛沫)感染するのかどうか?」という実験について。
続いて厳重なセキュリティが施された実験室へ入室。実験室の所在などは完全シークレット。
というのもここでは毒性を保ったままの新型コロナウイルスを扱っているから。
手袋は2枚重ねで防護服も使い捨て。さらに陰圧室になっているので内部の空気が外に漏れないような処置も。
室内では感染させたマウスやハムスターなどの臓器を調べて研究に最も適した動物を探す実験中。
どの臓器でどの程度のウイルスが増殖するかまで観察。
同じウイルスを投与されても動物によっては発症しないものもあるため、実験動物の絞り込みは重要。
ここでは全く発症が認められなかったマウスに対してハムスターで顕著な感染症状が出たという結果が得られた。
ハムスターの肺のCTスキャンには白い像が映っていて、これは全て肺炎の所見。
そして黒い像になっているのはガスが溜まっている部分。まとめると、激しい炎症と胸腔にガスが溜まっているという事。
スポンサーリンク2020年3月27日
やがてハムスターの体内で増殖したウイルスの量が臓器ごとに数値化された。
最もダメージを受けていたのは鼻と肺。これはつまり人間に近いという事。
「すごいね。へー!やっぱあれだね。病理見かけ通りだね。すごい。なるほど。なるほど。ふーん。」
感情をあらわにする河岡義裕。精度の高いデータが採れたことに興奮している様子。
「リアルタイムで本物のデータが出て来ましたよ。今のはさっき言ってた、ハムスターの臓器の中のウイルスの量。よくウイルスが増えているので実験動物としては使えるねみたいな。」
実験動物が決まれば薬やワクチン開発への足掛かりになる。ただし結論を急ぐわけにはいかない。
「ワクチンも抗ウイルス薬、治療剤も急には出来ないので。ワクチンは少なくとも数年は出来ない。薬は恐らく既に人で使われている薬の中でこのウイルスに対して有効な薬が見つかってくると思うんですよ。ベストなモノじゃないにしても今の状況をしのげるような薬が見つかって来るので、それが見つかって来れば少しは安心出来ますよね。」
2020年4月2日
「このウイルスが季節性を持っているかどうか?つまり冬に流行するウイルスかどうかっていう事はまだ分からないんですよね。でももしそういうウイルスだとすると6月ぐらいからウイルスの流行は下火になって、また冬に流行するっていう事になると思います。」
「その次の年(2021年)も流行するんですね。それはなぜかというとウイルスは世界中から消えてなくならないのと、日本にはまだ感染しない人がたくさんいるので。ただ長期戦になる事は確か。年単位の長期戦になる事は確か。」
日本政府の要請で諮問委員会や専門家会議で週に2度ほど召集されているという河岡義裕。
「危機感は多くの人が持っていて、それをいかに実行するかという所なんですよね。でも危機感だけじゃ全然ダメじゃないですか。だからそれを我々専門家が発信してもいくら、実行力を伴わないというか・・・。それは我々の責任でもあるわけですよね。分かってるわけで。これが本当にちゃんと出来ないと分かっていてそれを実行に移せなかったっていう事ですよね。それは何の為に我々が存在しているかっていう大きな問題ですね・・・。」
「歴史は繰り返すじゃないですけど、あんまり変わらないんですよね。パンデミックにしろ、流行にしろ。パターンは決まっているので。それは100年前のスペイン風邪の時もそうだし。(人間は)あんまり変わってないです。中身が一緒なのでそんなに変われないですね。行動も。あと情けないのは100年経ってもやってる事は『人に近づかない』。それ(しかない)か!?みたいな。医学が100年も頑張って。」
自身の仕事について「“やりがい”とは違う」と語る河岡義裕は、
「淡々とやる。あんまり意気込んでやる事ではないでしょ?だってやらないといけない事があって、それを淡々とやりこなす。」
「新型コロナであろうとなかろうと、他の課題であってもやらないといけない事があってそれを遂行するっていう。」
2020年4月6日
新型コロナウイルスの構造を立体的な画像に浮かび上がらせるというミッションをチームに課していた河岡義裕。
この日、その成果が出た。
2次元的な画像では平面でしかウイルスの構造を見られませんが、それを3D映像に再構築したものがコチラ。
球体のウイルス粒子をスライスするように細かく撮影し、その像を重ね合わせてまるで3Dプリンターのような要領で再構築。
中に映っているのがウイルス遺伝子で灰色がそれを多く細胞の膜。
「今回の新型コロナウイルスの中身まで、ハイレベルで高解像度で見たっていうのはあまり無いと思うんですよ。」
ウイルスの形状は重要な情報で、この構造が分かった上で抗ウイルス薬が開発されたり。
直ちに遺伝子の専門家と協力して解析プロジェクトを立ち上げた。
この翌日、
2020年4月7日。
この日、緊急事態宣言が発令。
2020年4月11日
直接の取材を取りやめてテレビ電話での取材に切り替え。
「人類がウイルスに勝つ負けるという問題ではなくて、この流行を何とか収めないと経済的にもとんでもない事になりますし、三週間前よりも当然といえば当然なのかもしれないですけれども、より危険な状態になりつつあるのは確かで。」
『希望はありますか?』というスタッフの問いかけには、
「希望はあります。これは我々みんなが行動自粛をすれば必ず流行は収まります。」
最後は、大手を振ってみんなで一緒にご飯を食べられる日が早く来ることを願いつつ取材は終了。